野党が要求した前川氏の証人喚問を、自民党は拒否した。だが、資料の真贋は官僚の目には明らかだ。文科省幹部はこう語る。

「文書は誰が見ても文科省で作成したもので、もう認めて楽にさせてくれ、官邸と内閣府が責任をとれというのが本音。前川会見に『今さら何を』という声もあるが、省内の大半は言い分には納得している。獣医学部新設に反対してきた文科省としては、今回の経緯はすべてを否定されたようなもの。『強引すぎる』という声は当時からあった」

 内閣府幹部もこう語る。

「文書は本物でしょうね。審議官クラスは官邸の首相秘書官や事務方から、よく直接電話を受けます。『総理、官房長官はこういう方向でやってほしいとお考えだ』という言い方はよくあり、特殊なケースはメモにして共有します。今回のように『総理のご意向』と書いてあるのは、よほど強く言われたんでしょう」

 文書では内閣府の藤原豊審議官が文科官僚に対し、<官邸の最高レベルが言っていること>などと、「圧力」ととれる文言を使ったと記録されている。前川氏は会見の中で「官邸の最高レベル」の意味について、

「一番上であれば総理だし、その次であれば官房長官でしょうから、お二方のどちらかのことかなと思った」

 と答えている。実際に総理や官房長官の指示があったのだろうか。発言の主とされる藤原審議官は、経済産業省からの出向組。経産省関係者がこう語る。

「藤原氏は経産省の中では規制緩和などを主張する『改革派』で、今の省内では少数派です。派手な政策を打ち出すタイプで、ある意味、軽いノリ。有力官庁の経産省は文科省を下に見ているため、居丈高な物言いになったのでは。審議官が直接、総理や官房長官と話す機会はまずないが、同じ経産省出身の今井尚哉首相秘書官などを通して聞いた話を文科省に伝えていたと考えると辻褄が合う」

 ところで、渦中の前川氏とは、どんな人物なのか。前川氏を知る総務省官僚は、「まともな人ですよ。話はおもしろいし、企業の御曹司なのに全然ひけらかさない。記者会見を見てビックリした」と語る。

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