「国境なき記者団」が発表した「報道の自由度ランキング」で、日本は韓国を下回る順位になった。ジャーナリストの田原総一朗氏は、その原因をこう分析する。

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 4月20日に、国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が発表した「報道の自由度ランキング」で、日本は世界180カ国・地域で、なんと72位であった。韓国が70位で、それより低いのである。

 私は、なぜ日本の順位がこれほど低いのか、直接確かめたいと思ったのだが、「国境なき記者団」の中には日本人が一人もいないことがわかった。つまり外国の記者たちから見ると、日本の「報道の自由度」はこれほど低いということなのだ。

 日本政府や報道関係者たちへの聞き取り調査をするために来日していた、国連特別報告者のデービッド・ケイ・カリフォルニア大アーバイン校教授が、19日に東京都内で記者会見をした。ケイ氏は、「日本の報道の独立性が重大な脅威に直面している」と警鐘を鳴らした。

 私自身はケイ氏の調査を受けていないが、日本の報道関係者たちへの聞き取り調査の結果なのだから、報道関係者たちが「報道の独立性が重大な脅威に直面している」ととらえていることになる。

 例えば、高市早苗総務相が、放送法に定めた政治的公平性から外れた放送局の電波停止に言及したことで、私たち7人のテレビにかかわるジャーナリストたちは強く抗議したが、ケイ氏は「政治的公平性などを定めた、放送法第4条そのものを廃止すべきだ」と求めているのである。

 私などは、放送法は放送局が自らを律する倫理規定であって、高市発言は暴言だが、放送法第4条の廃止までは考えていなかった。日本のジャーナリストは「報道の自由」について甘すぎるということなのか。

 
 さらにケイ氏は、「報道の自由」を縛る存在として記者クラブ制を指摘している。たしかに、記者クラブは所属する記者にとっては、政府の要人や官僚を取材するのに便利な場であろうが、所属していない、たとえば外国人ジャーナリストたちは完全に締め出されているわけだ。

 私自身、いかなる記者クラブにも属していない。以前、本番中にいきなり携帯電話をかけて首相にインタビューしたとき、記者クラブから激しい批判を受け、その番組を放送していたテレビ局が記者クラブから除名されそうになったことがある。

 外国のジャーナリストたちが日本の報道の在り方に偏見を持っているわけではなく、2010年、つまり民主党が政権の座にいたときのランキングは11位だった。大きく下がったのは安倍政権になってからで、例えば去年は61位であった。

 たしかに安倍政権になってから、自民党筋から放送局への介入が多くなった。14年の総選挙のときも、自民党が「公平中立」を求める文書を在京テレビの報道局長あてに送りつけている。こうした場合、報道局長たちが集まって協議し、自民党に抗議すべきである。だが、抗議するどころか、ほとんどのテレビ局が、こうした文書が送りつけられたという事実さえ放送しなかった。高市発言も当然、放送局がその発言を取り上げるべきだが、その当たり前のことをほとんどの放送局が行わなかった。

 私は、安倍政権により「政府の圧力」が強まったというより、放送局の体質がぜい弱になったのだととらえている。「圧力」ではなく放送局の自己規制によって番組が無難化しているのであり、気骨があって評価されていたキャスター3人がいずれも3月末に降板したのも、放送局の自己批判であった。

週刊朝日 2016年5月20日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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