そして、彼はカリスマホストのようなこなれた佇まいで、愛する女・遥香(栗山千明)にささやくのだ。「僕がずっとイラだってたのは、君が僕への気持ちをごまかそうとしていたからだ。ホントは恋してるくせに……ホントは愛してるくせに」ガバッ(キス)。

 この前までお花を愛でてニコニコしてるだけだったのにどこで覚えた、その恋の手練手管。咲人でこれなら、今頃アルジャーノンはケージで壁ドンしてるはず。

 そんな魔法の手術を開発した、とんでもサイエンティスト蜂須賀先生(石丸幹二)は、常に咲人をマインドコントロールしようとしている。

「君は私の誇り、私の息子、君には私がいる!」と。

 無垢で何にも染まってない男の子を、クールでモテモテのイケメンに育てあげる。そう、これってまるで芸能プロダクション。ハッチーズ事務所が開けそうな蜂須賀先生。

 芸能界デビューという魔法の手術で、飛躍的に魅力を向上させ、ファンの心を瞬く間に奪うアイドル

 けれど、この物語「アルジャーノン~」には、とても哀しい結末が待っている。魔法とはいつか解けるもの。永遠には続かないひとときの輝き。ドラマの物語とはまた別に、咲人とその父親の姿を見ていると、なぜかせつなくなる。アイドルという物語にも花束を捧げようか、アルジャーノン。

週刊朝日 2015年6月12日号