作家の室井佑月氏は、メディアにはきちんと報道すべきことがあると指摘する。

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 今、この原稿を書いているのは9月5日。先週から厭になるほど、新内閣の報道だ。安倍内閣と自民党役員の人事がどのように変わろうと、あたしたちの暮らしぶりが変わるわけじゃない。ぜんぜん興味ないってーの。

 これがCMだとすれば、いくらくらいかかると思う? きっと何億だ。タダで広告が打てるんだから、権力持っている側は強いのね。

 テレビに出ていた評論家たちは、「経済を重視している布陣」「女性の活用を重視している」「中国に対する戦略」なんておべんちゃらばかりいっていたが、あたしはべつにそうは思わなかった。

 消費税増税論者の谷垣さんを入れたから、経済重視? 官僚たちは喜ぶだろうが、うちら庶民はさらなる消費税増税にみんな反対してるんだってば。よりいっそう、消費は落ち込んでいくだろう。土建に強い二階さんを入れたって、喜ぶのはゼネコンだけだしな。女性閣僚5人にしたって、その女たちが一般の女のためにどう働いてきたかが肝心なんだろ? 彼女らが女の人権のため頑張ったなどという話は聞いたことがない。

 中国に対するパイプなんていうのは論外ね。いくらあの国とパイプのある人が内閣に入ったって、親玉とその周辺があの国を罵るのをやめなければ仕方ない。

 何度もこのコラムに書いているが、メディアはうちら国民の側に立って報道をしてくれよ。これはと思う情報は掘り下げて書いてくれないし、そのくせ、いらない情報をしつこく押し付けてくる。

 デング熱の報道の過熱っぷりにも、あたしは首を傾げる。蚊に刺されて熱が出た時点で、(デングウィルスかも)、そう国民や全国の医者が認識できた時点でもういいんじゃないの? 毎日、新たな感染者を発表しつづけることになんの意味がある? もっと報道しなきゃいけないことあるんじゃね?

 たとえば、9月5日付の東京新聞『こちら特報部』に載っていた福島の「中間貯蔵施設受け入れ3010億円交付金 財源 国民の懐頼み 電気代上乗せ、東電の資金ゼロ」という記事。「さらに国は中間貯蔵施設の建設費として、用地買収費用一千億円を含む一兆一千億円を見込む」という。その財源は、3千億円オーバーの交付金のうち、中間貯蔵施設などにかかる交付金と、福島復興交付金は国の東日本大震災復興特別会計。福島第一原発にかかる電源立地地域対策交付金と、1兆円以上の建設費用は、エネルギー対策特別会計から捻出。これは国民が払う電気代に上乗せだ。

 つまりすべてが、我々国民におんぶに抱っこ。

 それで、福島原発事故の避難者たちの生活が再建されるなら我慢もできよう。が、今までもそれなりに金を突っ込んできたけれど、未だに解決の兆しが見えない。こういうことこそ、大々的に報道したほうがいいのでは。

週刊朝日  2014年9月26日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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