2月3日、歌舞伎界を代表する名跡を継ぎ、骨太で大らかな芸格で人気を集めた歌舞伎俳優の市川団十郎(本名・堀越夏雄)さんが亡くなった。中村勘三郎さんに続く巨星の死に、歌舞伎界に衝撃が走った。十二代目団十郎がまだ海老蔵時代から付き合いのある元NHKアナウンサーの山川静夫氏が、団十郎さんの役者として、そして父としての姿を思い起こした。

*  *  *

 團十郎との最後は、昨年11月18日である。その月末から始まる京都南座の顔見世に出演する直前だった。ホテルオークラの近くにある「菊池寛実記念 智美術館」での今泉今右衛門展のイベントで、團十郎と十四代今右衛門氏の対談が企画され、私が司会役をおおせつかった。

 この対談はたのしかった。歌舞伎役者と陶芸作家には共通点がいっぱいあったからだ。二人とも、江戸時代からの伝統を受け継ぐ家柄であり、それぞれに家の「芸」や家の「型」があり、先祖から「マ」とか「調子」の難しさを学び、長い修業によって表現者としてのセンスを研(みが)くなど、歌舞伎の世界と陶芸の世界がよく似ていることが、お二人の巧みなトークによって引き出された。

 呼吸はぴたりと合い、先祖の力の大きさ、自然の力の不思議さに二人揃って敬意を表し、最後は、「表現」とは全人格からにじみ出るものなのだという結びとなった。

(対談後、会食中に團十郎は)海老蔵のことにもふれた。「先日、成田山に参詣したとき、海老蔵が色紙に“感謝”と書きましたよ。だんだんわかってきたかな」。團十郎は、こう言って、あとは「カンラ、カンラ」と豪快に笑うのだった。

 この夜が、團十郎との別れになってしまった。

週刊朝日 2013年2月22日号