自民党安倍晋三総裁が掲げる、人為的インフレを起こしデフレを脱却するという「リフレ政策」。リフレ政策が実行されると、まず国債価格が暴落し金融市場が大混乱に陥るという。慶応義塾大学の小幡績(おばた・せき)准教授は、そのことが私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか、具体的に教えてくれた。

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 国債価格が暴落すれば、円に対する信用が低くなり、為替市場では円が急落。資金の海外逃避も始まるため、為替は一気に円安に傾くでしょう。1ドル=110円が投資家にとっての心理的な壁になるとみています。投資家の行動次第では最悪の場合、1ドル=140円をうかがう可能性もあるでしょう。

 急激な円安で、小麦などの穀物や牛肉といった輸入に頼る食料品の価格も上昇します。支出に占める食費の割合が高い低所得者層は、生活が極めて苦しくなるとみています。そして企業にとっては、輸出競争力を高めるどころか、むしろ低下させる可能性があります。海外から輸入している原材料などの必需品が上昇し、コスト高となるためです。

 原子力発電所の再稼働が難しいなかで、LNG(液化天然ガス)や石油などのエネルギーコストの上昇は痛い。電気科金は、最悪1.5倍に跳ね上がる可能性があります。2割は上がってもおかしくはないでしょう。

 さらに金利の急騰も景気を冷え込ませます。国債を大量に保有する国内の銀行や保険会社は財務内容が大幅に悪化し、長期的にはこれらの業種の株価は下落することになります。銀行は自己防衛から貸し渋り、貸しはがしを行うようになるため、景気はますます悪くなる可能性があるのです。

 円安による輸入インフレと並行して、金利上昇によって景気が下降線に向かうことから国民の実質的な所得が大幅に低下するわけです。つまり、景気低迷時に物価が上昇する「スタグフレーション」が起きる可能性があるのです。デフレ不況も賃金が上昇しないため生活は苦しいですが、それでもモノが安いため、低所得者層は助かっていました。所得が下がったまま物価が上昇するスタグフレーションになると、生活はより厳しくなると思われます。

週刊朝日 2012年12月7日号