映画『転校生』や『時をかける少女』などの代表作がある映画作家・大林宣彦氏。これら故郷の尾道を舞台に撮影した「尾道三部作」は大ヒットしたが、地元の行政関係者からは批判を受けていたという。

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 僕が尾道で撮った「尾道三部作」は大勢の人に愛してもらえて、多くの人が尾道を訪れてくれました。しかし地元の行政関係者の間では、「大林は尾道の発展を30年遅らせたアホ監督だ」と言われています。僕は町をこのまま残してほしいという気持ちで、崩れた土塀やひび割れた瓦屋根や、歩きにくい山道ばかりを撮った。行政にすれば、尾道の恥ばかりを、日本のみならず世界にもさらしたというわけです。

 尾道は港町で、根っからのスクラップ&ビルドの町なんです。僕の映画がヒットして観光客が来るようになったら、山道を壊して広いバス通りを造ろうとか、そういうプランがいっぱい出た。僕は全部それを阻止した。せっかく敗戦を生き延びた町を、日本人が壊しちゃ元も子もないじゃないかと。いまだに「町こわし」とは闘い続けていますよ。

 でもね、日本人も変わってきました。昔は田舎に行くと、「こんな何もないところに......」と身をすくめて迎えられた。いまは胸を張って「街灯がないですから、夜は星をしっかり見ていってください」と言われます。多くの人が、文明と経済政策だけじゃ幸せになれないと気づいて、忘れられた文化をもう一度見直そう、という気持ちを持つようになってきました。

※週刊朝日 2012年6月22日号