このところ、日本株がものの見事に転げ落ちている。TOPIX(東証株価指数)は6月4日、一時バブル後の最安値を更新してしまった。実に1983年12月以来、約29年ぶりの低水準だ。欧州の財政危機により外国人投資家が日本市場から手を引いてしまったことが大きな原因だと考えられるが、実はこれは目先の話にすぎない。

 欧州危機の裏に「世界経済の2強」である米国と中国の深刻な問題があり、株価がそれを反映しているという見方が出始めているのだ。

 かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだった中国は、北京オリンピックや上海万博など国際的なビッグイベントを挟んで、鉄道、空港、高速道路などインフラが次々と整備され、景気を刺激した。

 しかし、こうした公共事業が一段落すると、中国の成長に陰りが見え始めた。

「もっとも、成長鈍化は意外なことではありません。景気の循環で考えると当たり前のこと。しかし、運が悪かったのは、欧州危機が重なってしまったことです」(富士通総研の柯隆(かりゅう)主席研究員)

 実は、中国の輸出先は欧州がいちばん大きい。欧州向けは昨年1~9月期まで前年同期と比べて2ケタで伸びていたが、同10縲鰀12月期で急ブレーキがかかって1ケタ増、今年1縲鰀3月期にはとうとうマイナスに沈んでしまった。

 浙江省温州市。中国南東部の温暖な中規模都市で、欧州向け減速の影響が色濃く表れているという。温州人は「中国のユダヤ人」とも呼ばれるなど商才に長けており、温州市は、昔から割安な人件費を武器にした製造業が盛んだった。特に、洋服、靴、100円ライターなど日用品を生産する工場が多く、ここから欧州に大量に輸出されていた。

「現地では『夜逃げが起きている』との報道が相次いでいます。そうした企業に融資していた地元の金融機関も相当傷んでいるようです。かつてはダンピング(不当廉売)で提訴されるほど、欧州市場に深く入っていましたから」(法政大学の菊池道樹教授)

※週刊朝日 2012年6月22日号