
児童虐待を受けた子どもたちはその後、どのように育ち、社会に出ていくのか。ノンフィクションライター・橘由歩氏は児童養護施設や里親などを訪ね、取材を続けている。
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虐待などで親と暮らせない子どもたちの約9割は児童養護施設など施設で暮らすが、国は十数年かけて従来の施設と里親・ファミリーホーム、小規模のグループホームの入所者を3分の1ずつにすることを目指している。
なぜ施設から家庭へのシフトを目指すのか。厚生労働省家庭福祉課の担当者は「虐待の連鎖を断ち切るという意味合いもあります」と話す。なぜ虐待の連鎖が断ち切られるのか。現場で教えを請おうと訪ねたのが、6人の子どもを養育するカワカミ家だ。
施設から来た当初、タクミはクリームパンに強く怯え、みんなを制してこう叫んだ。
「これは食っちゃダメなんだ。前にいたところで食ったやつはみんな、いつも腹を壊して大変な目にあってたんだそ」
タクミがいた施設では、「クリームパン」とは腐っているものだったのだ。
タクミは1年半前にカワカミ家にやってきたとき、1週間は眠ることができなかったという。