書評『女の答えはピッチにある』キム・ホンビ著/小山内園子訳 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《文庫・新書イチオシ(週刊朝日)》

女の答えはピッチにある キム・ホンビ著/小山内園子訳

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サッカーで変わる

 ぼくはサッカーのことを何も知らないけれど、キム・ホンビ『女の答えはピッチにある』には感動した。経験ゼロの30代女性がアマチュアチームに入ってさまざまな経験をする。それを辛辣かつユーモラスに書いたエッセイである。今年読んだノンフィクションの一番だ!

 著者はネットで見つけた初心者歓迎の女子サッカーチームに加入する。ボールを蹴ることすら初めて同然の著者は、なんと入団その日に試合出場。対戦相手は60代・70代のじいさんからなるシニアチームだ。

 監督の指示通り背番号6のじいさんを徹底マークする著者に、じいさんは苛ついてキレ、脅迫じみた言葉を投げつける。困惑する著者の前に女子チームのキャプテン登場。じいさんを諫め、「ったぐさあ、そうやって、ミジメに老後生きてくのかよ」と罵倒するのである。著者驚愕、でも痛快! さらに試合後、チームメイトたちの下ネタ爆笑トークを聞いて、自分を縛っていた儒教的道徳観念など木っ端微塵に粉砕されてしまうのだ。サッカーで世界がかわる。

 笑えるだけじゃない。上から目線で教えたがる男たちとか、出産とスポーツとか、社会の仕組みとか、いろいろ考えさせられる。サッカーで世界がわかる。

 ぼくが一番感動したのは、焼き肉店に勤める40代なかばのミスクの話。店に女子チームの選手が来たのがきっかけで、急にサッカーがやりたくなり、入団した新人だ。店にイヤな客が来ても<おいオマエら、アタシをただの、そんじょそこらの食堂のオバチャンだと思われたら困るよ、アタシゃ実は、サッカーしてる女なんだからね!>と心で思うと、自然と胸を張れるのだという。いいね。

週刊朝日  2020年9月11日号


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