日本でもっとも有名な生きている詩人は誰かと問えば、ほとんどの人が「谷川俊太郎」と答えるだろう。1950年のデビューから現在までに書かれた2500作もの谷川の詩篇は、人それぞれに思いだす作品は違っても、日本人の喜怒哀楽に寄りそってきた。

 そんな谷川を相手に、文芸ジャーナリストの尾崎真理子は計17回のインタビューを行った。尾崎は膨大な作品群と関連資料を読みこみ、谷川の人生と仕事を年代順に5章に分けて解説、批評。インタビューも各章に配し、厳選した20篇の詩とともに、この『詩人なんて呼ばれて』を編んだ。

 ひとりっ子の谷川に多大な影響を与えた両親の先進性、デビュー後の周囲の反応、独自の詩作の展開などを読み進めると、谷川俊太郎という詩人がその誕生からいかに特異な存在だったか、よくわかる。詩壇から「宇宙人」と揶揄され、本人も自身の特徴を「デタッチメント」と語るように、従来の戦後詩の世界に囚われない傍観者の目が、他にはない作品を生みだす源だった。

 だから、3度目の結婚相手である佐野洋子との関係が谷川に与えた影響を知ると、少し鼓動が速くなった。強烈な自我を前面に出して生活し、それを相手にも求めてくる佐野。いつもどおりやり過ごす谷川。このあたりの軋轢と葛藤がその後の谷川の詩にどう変容をもたらしたか、尾崎の分析は冴えわたる。「いま・ここ」を詩作の立脚点としてきた谷川は、どんな状況でも自分の生活の凹凸と連動して詩を書いてきたのだ。

 谷川俊太郎について知りたければ、今後はこれを読めばいい。そう断言できる文句なしの傑作評伝である。

週刊朝日  2017年12月15日号