塾業界に入って30年、数多くの親子との熱い交流から得た経験と実感から教育を語る花まる学習会代表の高濱正伸先生と、教育経済学の視点から、各国で行われている研究データとエビデンスに基づいて教育を語る教育経済学者の中室牧子先生。正反対のアプローチのお二人による「教育と経済力」「教育に必要な要素」についての結論は果たして? 発売中の「AERA with Kids 2023年春号」(朝日新聞出版)から抜粋してお届けします。
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高濱 本日のテーマは教育格差ですが、その前に中室さんの専門である「教育経済学」について、読者に向けて説明してもらえますか。
中室 教育経済学とは、経済学の理論や方法を用いて、教育の効果を定量的に計測しようとする学問分野です。教育については、優れた成果を上げた特定の個人の成功話に注目が集まる傾向がありますが、それよりも個人の体験を大量に観察することによって得られる規則性(エビデンス、科学的根拠)に基づいて判断することが重要だと考えています。
高濱 現場で30年間たくさんの子どもを見続けてきた僕にも経験というデータがあります。たとえば僕が塾業界に入ったころは、「親の経済力で子どもの学力が決まるのか」ということに対して、「そんなことはあるものか!」と義憤にかられたけれど、今は確かにそういう側面もあるという実感はあって。現実問題として、教育費はかなりかかりますからね。
中室 最近では、「教育格差」という言葉は広く知られるようになってきましたね。出身の家庭環境により子どもたちの教育機会に格差が生じることを指します。特に重要なのは、やはり親の収入でしょう。中でもとりわけ長い目で見たときの安定的な収入の多寡が影響を与えます。収入が少ないと、子どもの学校や進学などの選択肢が限られてしまい、貧困の世代間連鎖を生み出すというわけです。
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