高濱 なるほどね。現場的には、仕事をがんばっている親を見ているから遺伝的、環境的にがんばる子どもになりやすいといった面もあるのかなと思わないでもないんですが。入試でいえば、経済力や本人の頭の良しあしよりも、やるべきことを淡々とやれる真面目な子どもは合格しやすいというのは、実感としてあります。
中室 そうですね。経済学では「資源」という言い方をしますが、これには親の収入だけでなく時間や関心、価値観なども含まれ、これらも同様に子どもの成果に影響を与えることが多くの研究で示されています。
高濱 時間と関心。よかった、経済力だけじゃなくて。
中室 特に、「時間」についての研究が進んでいます。最近では共働き家庭も増えて、子育てにかける時間のやりくりに頭を抱える親は多いはず。親の時間投資に関する研究は、家計簿のように毎日の時間の使い方を記録した「生活時間調査」のデータを利用しているのが特徴です。この調査は16カ国で行われていますが、親の時間投資にある共通のパターンがあるんです。それは、学歴の高い親のほうが子どもへの時間投資が長くなる傾向があるということ。そして、幼少期の子どもにとっては、親の時間投資、特に母親の時間投資の影響が大きいことを示した研究があります。こうした学術研究の結果は、高濱先生の持論と一致してますよね。
高濱 やっぱり!(笑) 僕のこれまでの実感は間違っていなかった。
中室 過去の経済学の研究では、子どもが幼少期における母親の時間投資は、それが勉強に対するものか、体験に対するものかによらず、子どもの認知能力を高める効果があることが示されています。幼少期には、お金の投資よりも、時間投資のほうが効果が大きいことを明らかにした研究もあります。
ただ一方で、時間投資の効果は、子どもの年齢が小さい時のほうが高く、年齢とともに小さくなっていくことも示されています。子どもたちは大きくなるにつれ、どう時間を使うか主体的に意思決定をするようになっていきますから。
アメリカのデータを用いた研究によれば、子どもが単独で時間の使い方に決定権を持つ範囲は10歳から14歳の間に約2倍に増加し、逆に親とともに意思決定をする範囲は減少していきます。また、時間投資は「量」より「質」だと指摘する研究もある。クオリティータイムが重要だというわけです。
次のページへクオリティータイムとは?