「仕事が苦役ではなく喜びとなる社会を実現していきたい」と話す児島玲子医師
(撮影/写真映像部・加藤夏子)
「仕事が苦役ではなく喜びとなる社会を実現していきたい」と話す児島玲子医師 (撮影/写真映像部・加藤夏子)

 医師のキャリアプランも多様化してきている。週刊朝日ムック『医者と医学部がわかる 2023』では、株式会社丸井グループの専属産業医であり、同時に取締役執行役員CWO(Chief Well-being Officer)を務める小島玲子医師にお話をうかがいました。

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 小島医師は今の立場について「まさか自分が大企業の役員になるなんて思いもしませんでした。医師の仕事は実に幅広く、可能性に満ちたものだと感じています」と笑顔で語る。 

 両親は、共働きで忙しい日々を送っていた。睡眠や食事が不規則な二人の姿を見て、「働く人を支えるお医者さんになりたい」という夢を抱いたという。志望校を、働く人の健康を支える医師育成のために建学された産業医科大学一本に絞ると、地元の東京からはるばる九州に進学。大学卒業後は大手非鉄金属メーカーで専属産業医の道を歩み始めた。同時に総合病院の心療内科で週1回の外来診療を受け持つと、小島医師は気になることが出てきた。

「メーカーには、『忙しくて大変ですよ』と言いながらも生き生きと働く人がいました。一方で診療内科には、働いて心を病んだ人がたくさん来ます。同じ働くという行為を通じて、輝く人と病気になってしまう人がいるのです。働いて幸せになるってどういうことなんだろうと、疑問が湧きました」

 そこで北里大学大学院に社会人入学し、人と組織の活性化を研究。働いて幸せを感じるには明確な目的や自身の成長、良好な人間関係などが欠かせないことを学び、仕事を苦役ではなく喜びに変えたいと思うようになった。

「一般的に産業医には、仕事でマイナスになった心身をゼロに戻す支援が求められます。ですが私は、仕事を通じて心身をプラスに導いていく産業医を本気で目指そうと心に決めたのです」

■人・組織・社会を活性化し、働く人と周囲を幸せに

 2011年からは新たな挑戦の場を求め、丸井グループの専属産業医に。当初は「いずれ役員に」などという話は毛頭なく、基本的な産業医の職務を求められていたという。しかし、入社1年目に延べ262回の店舗巡回で見た各店の雰囲気とメンタル不調者のデータをまとめると、そのリポートが社長の目に留まり、転機が訪れる。

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