『妻のトリセツ』がベストセラーとなった脳科学・人工知能研究者の黒川伊保子さん。自身は一人息子(31)を育てた母。ユニークな子育て法を聞いた。

※記事前編<<『妻のトリセツ』黒川伊保子が語る子育て 息子を「将来の妻に好かれるいい男」にする育て方とは>>より続く

――息子さんはどんなお子さんだったのですか?

 今はワイルドでタフに育ちましたが、子どものころはおっとり、というかぼんやりで、宿題を出されていることに気づかない、習い事に興味を示さない、成績はよくない、走れば最下位……みたいな。小1の2学期のある日、帰宅するなり「今日ね、不思議なことがあったんだ。学校についたら2時間目だったの」って。えー! あなた8時に家を出たんだよ!? 10時までどこに行ってたの、と(笑)。何かに夢中になっていたんでしょうね。実は、ぼんやりするのは、とても集中力があるということ。集中力や想像力がありすぎて外界に戻って来られないので、このぼんやりは才能だと思って見守りました(笑)。

――ひらがなや漢字を入学前に教えるなど、早期教育はされていましたか? 

 いえ、まったく。読み聞かせはたくさんしましたが、文字はいっさい教えませんでした。数字も教えなかったような覚えがあります。私の父が、私にそうしてくれたから。父は教育者で、「学校で習うことを、親が小賢しく先に教えたら、学校で退屈するだろう」と、おおらかに笑ってました。脳の発達から見ても、文字を身に付けるといった記号論的な学習は、6~8歳の言語機能完成の最終段階で十分間に合うので、私は、小学校にお任せしました。

 それともう一つ。これは研究で証明できることでなく私の実感ですが、脳が好奇心を発する前に情報を与えられた場合と、自分から興味を持ってから学んでいく場合とでは、脳が受け止める場所が違うのではないかな、と。私は、息子の脳が「おもしろい」と思えるときまで待ってあげたいと思ったんです。

 きっと世の中には早く始めると得することもあると思う。でも、早く始めてしまうともったいないこともある。私の場合、子育てのタイミングは研究者としても脂ののっている時期だったので、文字を教えている余裕がなかったし、子どももぼんやりだったので、「これはラッキー」と思って遅く始めるほうの利益をとりました(笑)。

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平井啓子
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