北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 多くの方がご存じのように(ですよね?!)、日本は世界に類を見ない性産業大国でもある。その理由の一つが「性風俗関連特殊営業」を規定している「風営法」にある。「風営法」の歴史を簡単に説明すれば……1956年、超党派の女性議員らの尽力によって売春防止法(売防法)が成立した。ただ、求められていた買春者の処罰は実現せず、売る側だけに罰則が設けられるものになってしまった。一方、84年には風営法が大幅に改正され、男性器の膣挿入以外の行為が、各都道府県公安委員会に届け出ることで認められるようになった。売防法により「売春」(男性器の膣挿入という狭い定義)は禁止されているが、風営法により業者が自由に営業できるようになったのだ。そのため、口腔性交のみをうたう業種など、性産業が限りなく細分化されていき、世界に類を見ない方法で巨大な産業として発展しているのが日本の現実だ。風営法は売防法をさらに骨抜きにし、買春文化を無制限に広げてきた法律ともいえる。

 今回の裁判は、風俗業者に給付金が支払われないのは「法の下での平等を保障した憲法14条に違反するか否か」が問われた。判決では、「一時の性的好奇心を満たすような営業が、公の機関の公認の下に行われることは相当ではない」とし、「国庫からの支出で性風俗業者の事業継続を下支えすることは、大多数の国民が共有する性的道義観念に照らして相当ではない」とした。つまり、国は風俗業に目をつむっているだけで公的に認めてねぇからな、国民も認めてねぇからな、という話である。

 そこで、モヤモヤがはじまってしまうのである。

 そもそも風俗は、「一時の性的好奇心を満たすような営業」という定義で説明できるものなのだろうか。その定義が徹底的に「買う側視線」のみで、風俗で働く女性たちの視線が一切ないことに、胸が締めつけられる思いになる。

 近年、ソープランド、デリヘルといった性売買産業で働く女性たちから、日常的搾取や暴力に苦しむ声があがりはじめている。実際に、女性支援団体に助けを求める、性産業から逃げ出す女性たちが後を絶たない。そういう業種を「一時の性的好奇心を満たすような営業」として黙認し続けたつけを、女性たちがその人生で払わされている。

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女性たちの苦しみを黙認してきた