育休から復職したがらない妻に夫は不満。専業主婦は「特権階級」か。「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、『論語』から格言を選んで現代の親の悩みに答える本連載。今回の父親へのアドバイスはいかに。

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【相談者:2歳の息子を持つ30代の父親】
 2歳の息子を持つ30代の父親です。育休中の妻が「パパ(私)の収入だけで暮らしていけそうだから、復職せずに専業主婦になりたい」と口にし始めています。私は会社勤務、年収800万円ほどで、世帯収入としては暮らしていけるのかもしれませんが、思いとどまらせたいです。妻は、育児中心の生活にすっかり慣れてしまい、働きたくなくなってしまったのです。

 さらに、妻・母親としての世間の評価が気になるようで、「働かずに済む家庭は裕福な特権階級」とさえ思っているようです。私は実家が商売をやっていたために「健康な大人は働くべきだ」と教えられてきたので、「働かない人=怠け者」に思えます。「家事を完璧にして内助の功に尽くしたい」と妻は言いますが、毎日の食事や掃除、日用品の買い物などはそもそも妻の育休中から私が担当しており、仕事を辞めてまですることではありません。「良妻」の定義は昔と変わっています。妻を復職させたく、どう説得すればいいでしょうか。

【論語パパが選んだ言葉は?】

・「幼にして孫弟(そんてい)ならず。長じて述べらるる無(な)く、老いて死せず。是(こ)れを賊と為す」(憲問第十四)

・「人にして仁ならずば、礼を如何(いかん)。人にして仁ならずば、楽(がく)を如何」(八イツ第三)

・「如(も)し周公の才の美有りとも、驕(おご)りて且(か)つ吝(やぶさ)かならしめば、其の余は観るに足らざるのみ」

(泰伯第八)

【現代語訳】

・「幼いころは、目上の人に従順でなく、大人になっても何一つよいことをせず、年をとってからも、いたずらに生をむさぼっている。そういう人を『泥棒』と言うのだ」

・「人として最も大切な愛情がないなら、礼儀をちゃんと守っても音楽をうまく奏でても、それが何になろうか」

・「たとえ、完全無欠の才能があったとしても、人に対して驕(おご)り、卑しくけちな心を持っていたら、論ずるに足りない人物としか言えない」

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/文献学者・中国学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞。『ステップアップ0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など著書多数。母親向けの論語講座も開催。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族

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