2000年頃、世界でPCBを含む電機・電気製品からPCBを含む絶縁油が漏れる事故が相次ぎ、大きな社会問題となりました。わが国でも、小学校、中学校、高等学校で、古い蛍光灯の安定器のコンデンサが爆発して、PCBが生徒や児童に直接降りかかる事故が発生したことは記憶に残っているところです。

 このPCBは、未だに分解処理できずに、安全と思われる場所に保管されています。しかし、2001年「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特別措置法)の施行を契機に、全国5ブロックに処理場が設置され、高濃度PCB廃棄物は期限内に処分しなければなりません。北九州・大阪エリアは処分期間を終了、北海道・東京・豊田エリアは2023年3月までが期限になっています。この処分の知らせが、電車の中にまで貼られていましたが、どのくらいの方が気づいたことでしょうか。

■ 原因物質の正体と猛毒のダイオキシンとの関係性

 カネミ油症の本当の原因物質は、使用した熱媒体のPCBそのものではなく、PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)であることが明らかになっています。PCDFはPCBに酸素原子が一個挿入された化学構造を有していますので、加熱の過程で酸化反応が起こり、PCBがPCDFに変化したものと考えられています。PCDFにさらに酸素が一個挿入されると、世界的に大問題になった猛毒のダイオキシン類となります。

■ 身の回りの化学物質に関心を

 カネミ油症事件は、脱臭装置の配管から何からの原因で化学物質が漏れて発生した人災でした。さらに悲劇的だったのは、使われた毒性の強いPCBが熱化学反応を起こし、さらに猛毒化した化合物にいつの間にか変化してしまったことでした。用いた化学物質が姿を変え、植物、動物、人間までをむしばむ危険性を、「沈黙の春」を著したレーチェル・カーソンは、ほぼ60年前に指摘しています。

 PCB、PCDF、ダイオキシン類以外にも、環境ホルモンと総称される化学物質は身の回りに数多くありますので、それなりに化学物質に関心を示すとともに注意を払うべきです。これらについては、別の稿で述べたいと思います。

和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している