支援団体「カネミ油症被害者支援センター」(YSC)が昨年行った被害者の子供や孫へのアンケート調査によれば、認定患者と似た症状がみられたとのこと。そこで、YSCは昨年12月、次世代の救済や全国規模の調査実施を厚生労働省に要請しました。

 これを受けて、6月25日、国は認定患者の子を対象に実施する健康実態調査に孫も含める方針を被害者団体などとのオンライン協議で明らかにしました。協議は厚生労働省と認定患者、医師らで構成する全国油症治療研究班(事務局・九州大)などが非公開で実施、8月から認定患者に調査票を配布し、その子と孫に協力を呼びかける方針が明らかにされました。

 本油症事件については、2012年に被害者救済法が成立しましたが、健康不安や差別に苦しむ子や孫らの大半は患者認定されていませんでした。今回の国の方針により、丁寧な健康実態調査の実施、そして認定基準の見直しが行われることが期待されます。

■  迫るポリ塩化ビフェニールの処分期限

 さて、ここからはカネミ油症に関わる化学物質について、少しばかりその化学を紹介しましょう。前述のとおり、原因は材料の米ぬかではなく、その脱臭目的のために使われた熱媒体です。名前こそ良く知られたPCBという化学物質です。

 少し専門的になりますが、PCBはベンゼン環が二つ直結し、そのベンゼン環に塩素原子が1個から10個結合した構造を有しています。したがって、PCBは一つの化合物ではなく、総称名で、209個の異性体(分子式は同じでも形が違うもの)が存在します。

 このPCBは、熱に対して安定で、電気絶縁性が高く、耐薬品性に優れています。加熱や冷却用熱媒体、 変圧器やコンデンサといった電気機器の絶縁油、可塑剤、塗料、ノンカーボン紙の溶剤など、非常に幅広い分野で使われてきました。しかし、生体に対する毒性が高く、脂肪組織に蓄積しやすく、発癌性があり、また皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こすことが分かり、カネミ油症発覚して以降、1972年に製造・使用禁止になりました。

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