「CMはやはり、出ているタレントよりも音楽が担う部分が大きいコンテンツです。このところ、タレントパワーが相対的に低下しているので、懐メロで“掛け算”しているんでしょう。懐メロに限らず、スバルのCMのようにずっと、車と音楽だけで展開しているものもあります。タレントが出演していない分、楽曲の使用料金が高くてもおもいっきり、お金をかけられるのが特徴です」(同)

■夏以降も懐メロCMが増えていく!?

 ポカリCMに関して言えば、吉田羊と懐メロ楽曲は相性が抜群ということだろうか。一方で、3~5月にかけて、コロナ禍によりロケや屋外撮影などが厳しくなっていることもあり、夏以降も懐メロCMが増えるという予測も。

 「時間がないときに、楽曲メインのCMは企画が通りやすいんです。短時間でクライアントにプレゼンし、仕上げてチェックまで持っていく場合、懐メロや替え歌はうってつけなんです。業界では、CMの楽曲に関して『子どもが口ずさむようなものを作れ』と入社1年目によく言われます。これからしばらく、楽曲メインのCMは増えるでしょう。最悪、ありものの映像と音楽だけでも成立させることは可能だからです」(同)

 TVウォッチャーの中村裕一氏は、懐メロCMの人気についてこう分析する。

「新型コロナウイルスによる自粛生活を余儀なくされた私たちにとって、心の支えとなったのが、さまざまなエンターテイメントです。なかでも音楽はどんなシチュエーションでも手軽に触れることができ、それでいて深い感情を呼び起こさせる、エンタメの中でも特にエモさをかきたてられやすいジャンルと言えるでしょう。ポカリの懐メロCMが人気なのも、今の不自由な暮らしに対する漠然とした切なさと、華やかだった時代のノスタルジーが絶妙に折り重なり、多くの人たちの心に刺さったのだと思います」

 こうした効果に加え、企業側の安定志向の強まりも影響していると中村氏は続ける。

「このご時世、あまり奇抜な演出だと『不謹慎だ』とSNSで叩かれかねません。広告であるCMならなおさらのこと。企業の間にも少しのリスクも排除したいという考えが強まっていると思うので、しばらく懐メロCMは続くでしょう。ただ、懐メロというと、邦楽がピックアップされがちですが、日本でも大ヒットしたa-haの『テイク・オン・ミー』や、トンプソン・ツインズの『ホールド・ミー・ナウ』、ボン・ジョヴィの『リビング・オン・ア・プレイヤー』といった、コロナ時代にこそ刺さる歌詞を持つ80年~90年代の懐メロ洋楽のカバーCMもぜひ見てみたいですね」

 ポカリCMのように長く続くヒットシリーズともなれば、商品や企業に対する高感度もあがっていくというもの。各社、どんなCMを繰り出してくるのか。(黒崎さとし)