芝居を志す若者たちへ、ワークショップなどで演技を教えることもある。

「僕がいつも説明するのは、声だけで演技をする声優と、生身の体を使って演じる舞台や映像作品の役者は似てるようで全く別の仕事なんだということ。例えるなら、同じ陸上でも400メートルハードル走と走り高跳びぐらい違うと伝えています。

 アフレコでは、(キャラクターなどの)口が開き始めてから閉じるまでの間に芝居をぴったり合わせるのが原則。すごく簡単に言っちゃうと「監督や演出という他人が決めた尺に自分の芝居をぴったりはめ込む」仕事。しかもアフレコ時には完成した絵ではなく、まだ絵コンテという状態の絵を見て演技することも多いです。アフレコのときの絵と、完成した絵が違うことなんていくらでもあって。走りながらしゃべるシーンで、なんだ、もっとぜーぜー息を切らせばよかったとか、思ったよりも距離が離れてたからもっと叫べばよかったとか、オンエアを観て思うこともしばしば。それで視聴者にヘタクソと言われてしまうこともあります(苦笑)。そこは監督に聞いたり、想像力で補完したりして、イメージの差異をできる限り埋めていくしかないんですよね。

 声だけでエスパーにも戦国武将にもなれるのが声優。43歳でありながら高校生をやれるのなんて、この仕事ならではです。いま舞台で高校生役をやれなんて言われたら、メイクと照明を最大限強めにしてもらえますかってなっちゃうと思います(笑)」

■明日はわからない「消極的なサムライ」だから本気でやる

 いまや声優志望者は30万人とも、50万人とも言われている。このうち実際に声優を仕事としてできるのは1万人程度。そのうえ芸能事務所に所属し「声の仕事だけで食べていける」声優となると、約200人~300人という狭き門だ。

 さらには環境の変化が襲う。動画配信サービスなどメディアの種類が増え、声優が活躍できる場所が広がる一方、その競争は厳しさを増していく。

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明日がわからないから本気で取り組む