まあ、俺は幸いなことに、なんといっても女房がしっかりしていたから(笑)、周囲との人付き合いに関しては、彼女の行動に乗っかっていただけなんだよね。相撲プロレスも普通の社会からは隔離されたような、独特の世界だから。ここの住人たちは、人付き合いが本当に下手だよ。相撲用語では素人さんのことを「ヨカタ」っていうけれど、これは番付に名前が乗らない、外部の一般人という意味。こういう言葉があるくらい、関係者や自分のファン以外との付き合いはごくわずかだから。

 レスラーもそうだけど、家庭を持ったり、誰かに紹介されたりという機会がなければ、基本的には外部の人との交流なんて少ないから。もちろん、俺自身の好き嫌いが激しい性格も一因ではあるけれど(笑)、女房が周囲との潤滑油になってくれていたんだね。まあ、これも得意不得意があるけれど、プロスポーツということでくくると、あまり社交的ではない人たちが集まっている印象があるな。特に俺は結婚してから女房に意識改革をさせられたクチだね。

 今でも強烈に覚えているのは、プロレスで上り調子だった時代の、後援者との食事のこと。俺が先に勘定を済ませちゃって、さらにはタクシー代も固辞したんだけど、帰宅して女房に一連の出来事を話したら、「あなたはせっかく招待してくれた人の顔に泥を塗っているのよ」と諭されてね。こんなふうに、人付き合いの面においても、軌道修正をしてもらったことがたくさんあるよ。「あなたの身勝手な自己満足じゃない」ってね。そうやって俺自身が徐々に変わっていった。のちに団体の長になったときに、下のレスラーたちを諭せるようになったのも、こういう積み重ねのおかげだよね。

 相撲でひん曲がった性格が、プロレスに行ってさらに頑固になっていたけれど、結婚してからは世間一般の人たちの声を、受け入れたり聞き流したりすることができるようになった……ああ、ただの一般常識を身に着けさせてもらっただけなのか(笑)。

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ハンセンに振る舞われたフランクフルト