4レースから3人を選ぶ方法、不明確な基準とあいまいな選考、さらに選手を評価する強化委員を各実業団のコーチなどが務めていたこともあり、マラソン競技は毎大会といっていいほど五輪代表選考で議論を呼んできた。

 このような歴史から、一発選考レースの導入を望む意見は多かった。しかしコース特性、気象条件、出場選手のフィールドなど、様々な要素がマラソンのタイム、レース内容に関わってくる。五輪本番同様の条件のコースを設けることが難しいことや、夏のオリンピックの選考を冬のレースで決めるべきか、コースと選手の相性などもあり難題は多く、これまで実現しなかった。

 また、現在も選考レースになっている国内大会があり、1つの大会に絞る、もしくはトライアルを新設することで、他大会では出場選手が減って競技者やファンの関心が薄らぐことになるといった興行的な問題もあった。

 しかし現在の日本マラソン界は黄金期を過ぎ、男子は1992年以降、女子も2004年以降は五輪の表彰台から遠ざかっている。その中であいまいな選考を続けていくのではなく変化を求めたことや、今回は来年の五輪本番とほぼ同じ条件のレースを作れることを理由とし、この度、MGCの導入に踏み切ることとなった。

 MGCでは大会のシステムだけでなく、レース自体も注目を集める。ペースメーカーがおらず、タイムではなく勝つことが求められるレース。42.195キロの中での組み立て、少数選手の中での駆け引きが重要になる面でも、通常とは異なるレースとなることが予想される。

 男子は川内優輝が今月末から始まるドーハ世界選手権を優先させてMGCを欠場する中で、日本記録保持者の大迫傑、2018年のジャカルタアジア大会チャンピオンの井上大仁、前日本記録保持者の設楽悠太がレースの中心となるだろう。女子は名古屋大学出身でスピードと勝負勘のある鈴木亜由子が本命か。ベテランの福士加代子、スプリント力のある松田瑞生も虎視眈々と狙っている。

 タイムや順位の基準を当初から明確にし、選考に主観的要素が入らない選考方法は、来夏の東京での結果にかかわらず評価されるべきだろう。国として勝てる選手を選ぼうとするが故に、あいまいさを残していた従来の選考から転換したことは、『オリンピック競技大会は,(中略)国家間の競争ではない』としているオリンピズムの理念とも合っている。画期的なトライアルでどんな選手が勝つのか、そして選ばれた選手が1年後にどんなレースを見せてくれるのか、大いに注目である。(文・小崎仁久)