一方、韓国では軍事機密を日本に提供することに反対する声が大きかった。本来であれば日韓GSOMIAは12年6月に締結される予定だったが、反発を受けて韓国政府が締結1時間前に延期したこともある。GSOMIAは、韓国では安全保障である以上に日韓関係の政治的な問題になっていた。

 ただ、GSOMIAの破棄は米国も反発している。米国のポンペオ国務長官は、「同盟国の安全保障上の利益に悪影響を及ぼし、北東アジアの安全保障問題で文政権の大いなる思い違いを知らしめることになると繰り返し伝えてきた」と強い口調で批判した。辺氏も今回の文政権の対応は「賭けに出た」と分析する。米韓関係の今後が、日米韓の安全保障体制にどのような影響を与えるかは、現時点では見えていない。

 一方、朝鮮半島情勢をめぐる国際政治から取り残されてしまった日本はどうなるのか。前出の辺氏は言う。

「日韓対立には両国の首脳に責任がありますが、現在では本来やってはいけない外交カードを切るようになってしまった。安倍政権はそこまで想定したうえで輸出規制を強化していたとは思えず、このまま朝鮮半島の和平交渉が進めば、ミサイルの脅威を感じるのは最終的に日本だけになる可能性もあります」

 ある外務省元幹部は、現在の安倍政権の外交に経産省官僚が影響力を強めていると指摘されていることについて「官僚は専門分野以外のことに口を出してはならない」と批判する。“素人外交”失敗のツケは、最後は国民がかぶることになる。(AERA dot.編集部・西岡千史)