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その時、認知症の父は高速道路を“逆走”した!

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父が高速道路を逆走・・・その時、家族は・・・(※イメージ写真) 

父が高速道路を逆走・・・その時、家族は・・・(※イメージ写真) 

 今、認知症罹患者は全国で約462万人にも上っており65歳以上の高齢者では4人に1人が罹患しているという(厚生労働省調査)。2025年には罹患者数は700万人を超えるとの試算も発表されている。今後ますます増えゆくことが予測される認知症――。だがその実態はあまりにも知られていない。そんな高齢者認知症患者の父(82)の介護をしている私(フリーランス・ライター、43歳)の体験を基に認知症のリアルな現実を綴ってみたい。

 かつて大声を荒らげることなく常に身だしなみに気を配り温厚な紳士を絵に描いたような自慢の父に変化が訪れたのは15年くらい前からか。

「今日帰りが遅くなるからね」と朝声掛けしても、夜、帰宅後に「なぜ早く帰ってこないのだ?」と何度も怒鳴る。

 そして、くどくどと同じ話を何度も聞く。この頃は、私も母も、父も年を取ったなという認識でしかなかった。当時はまだまさか認知症の症状が進行しているなどとつゆほども思わなかったものだ。突然テーブルを叩くなどキレることが多くなったのもこの頃からだ。

 さすがにおかしいなと思い始めたのは、父自らハンドルを握って母と行った10年前のある日のドライブ旅行での出来事からだ。サービスエリアに止めてあった車に乗り込むや否や、父は「う~ん」と考え込むしぐさをみせた。

 普段、習慣化しているドアミラーの開閉ができない。母が、「ここじゃないの?」と水を向け、「おお、そうだそうだ」といい、ようやく車を発進させた。

 だが、行き先がおかしい。今来た道をそのまま戻っている。

「お父さん、この道、逆走!止めて!」

 私と母は必死に叫ぶ。
 だが父は聞く耳を持たない。「車の運転は俺のほうがうまい」と父は大声で怒鳴る。その怒鳴り方は攻撃的で素人目にも何かおかしいと感じさせるものだ。
 
 そのままスピードを上げパーキングエリアの入り口まで車を進める。入り口まで来てようやく父は事を認識したようだった。

 だが父は言う。
「なんで皆、車が逆走してるんだ?」

 父にはもうハンドルを握らせるのは無理だと気づいた瞬間だ。

 2013年2月、腸閉塞を患っての入院時、看護師の話によると父はベッドの上に仁王立ちとなってコンビニエンスストアのビニール袋に用を足したという。この入院時の診察で「アルツハイマー型認知症」という病名がついた。過去の奇行の数々もこれで納得できた。

 退院後から今日まで父の認知症は加速度的に進んでいる。カップラーメンを食べようとするのはいいが、これを鍋に放り込んで水を入れて煮込む。インスタントコーヒーとコーヒー豆の区別がつかない。豆を轢いていないコーヒー豆にお湯を指し、「コーヒーが入ったぞ」といいうまそうに飲んでいる。もう味覚もないようだ。家族としては、日々、そんな父の姿をみるのは辛い。

 介護には不安が付きまとう。だが人は年を取れば取るほど子どもに返っていくという。子どもが持つ明るい未来、そこに父を重ねていくことで介護の不安もまた希望に変えられよう。今日もまたこんな不思議なことをしてくれたと笑いに変えて、日々、介護を楽しんでいる。

(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)


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