そこでいくつかのチームが導入したのが、各種データの書き込まれたカードを内蔵した捕手用の特製リストバンド。アメリカンフットボールに詳しい方は、クォーターバックが装備しているものを想像してもらえればいいだろう。

 もっとも『ニューヨーク・ポスト』紙は、ヤンキースのラリー・ロスチャイルド投手コーチが「投球パターンを決め打ちするつもりはない」と語っていたことを伝えており、各打者への決まった攻め方までがカードに記載されているわけではないようだ。あくまでもビッグデータを基にした傾向が示されているだけで、そこから先の組み立ては捕手次第ということなのだろう。

 ともあれ、今後はいつマウンドに行って投手に声をかけるかというタイミングにも捕手のセンスが問われる重要なファクターになった。頻繁にマウンドへ駆け寄って投手とコミュニケーションを取るヤンキースのゲーリー・サンチェス捕手などは、オープン戦でこれまでのルーティンどおりにできない戸惑いを口にしていた。

 ただ、ロスチャイルド投手コーチは、捕手たちには試合全体を通じてのマウンドへ行く回数を過度に気にしてほしくないという。『ニューヨーク・ポスト』紙によると、同コーチは必要と感じた時に捕手がマウンドに行くことはとても重要と強調し、注意すべきはコーチの方だと持論を展開。マウンドへ行く回数が制限されたことによる試合終盤への影響は誰にとっても未知数だと話していたという。

 いずれにせよ、前述の特製リストバンドは些細なデータ確認のために捕手がマウンドへ行く回数を減らすのに有効だと思われる。サンチェスもリストバンドは間違いなくプレーの助けになると認めており、今後は採用するチームもどんどん増えていきそうだ。(文・杉山貴宏)

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