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「私達が声を上げてこなかったから、いまも若い女の子たちが被害を受け続いているとしたら……」
そう言って、中島京子さん(53)は大学卒業後、22、3歳ごろの経験を話し始めた。
ライターになりたい。後に直木賞作家となる中島さんは、そう思って大学在学中からアルバイトを始めていた。そのころ知り合った同業の先輩の一人、10歳ぐらい年上の男性に仕事の相談をした日のことだった。
「夜、2人でお酒を飲みながら食事をして、仕事のことを話しました。話を終えて帰るつもりでいたら、ちょっと寄っていこうと言われ、男性に肩を抱かれてホテルに連れ込まれたんです」
「嫌だ」と言うと、男性は不機嫌になり、「いつでもどこでも脱げるのがいい女なんだ」と変な説教をして帰っていった。
「当時は、バカだったと自分ばかり責めていましたが、仕事の相談をしただけで、一緒にお酒を飲んで食事をしただけで、好意を持っているとか一緒に寝たいと思っていると受け取る相手のほうが、おかしくないですか」
中島さんは仕事を始めてからも、男性のクライアントと打ち合わせで一緒に夕食をした後、帰りのタクシーで太ももを触られたり、男性と泊まりの出張をした夜に部屋に呼び出されたり、セクハラ被害を受けてきた。それでも友人や家族に話すことも、職場や取引先に訴えることもしてこなかったのは「上手くやり過ごしてこそ一人前の女性という感覚が、何となくの暗黙のルールとして刷り込まれていたように思う」と振り返る。
米ハリウッドで始まった性被害やセクハラの告発は、SNS上でハッシュタグ「#metoo」とともに世界中で広がり、日本でも女性たちが声を上げ始めている。中島さんが自分の体験を語ることに決めた理由は、「申し訳なさから」だと言う。
背中を押したのは、元TBS記者の山口敬之氏と2015年4月3日、都内で飲食した際に意識を失い性暴力を受けたと訴える伊藤詩織さんの存在だった。彼女は素顔と名前を出して記者会見に立ち、手記『Black Box』(文藝春秋)を出版した。