「米吉というのは父、曽祖父、高祖父も名乗ってきたのですが、僕が歌六になれるかどうかは自分次第。吉右衛門おじさんに、『お前が歌六になろうという時には、僕もいなければ、お父さんもいない。五代目歌六の息子だからなれるわけじゃない。自分の力だけで周りを納得させないと。それはよくよく心しなさい』と言われてきました」
歌舞伎の家に生まれ、物心つく前から歌舞伎に触れてきた。「継がなくてはいけないんですね」「やりたいこともできなくて大変ですね」と言われることも少なくない。
「それは全くの間違いで、僕は歌舞伎が好きだからやっている。もちろん小さい頃から身近にあったから好きになったというのはあるでしょう。僕に限らず、歌舞伎役者はみんな歌舞伎が好きで、愛している。それがお客様に楽しんでいただくことにつながってるし、歌舞伎を愛していただけることにつながるんじゃないかと思っているんです」
20代最後に「オンディーヌ」や、テレビドラマ「ママはバーテンダー ~今宵も踊ろう~」(23年1月からBS‐TBSで放送)など、新たな挑戦をしている。
「30歳までに土台をつくらなければという思いでいたので、20代はあっという間でした。10年前に歌舞伎以外の舞台に立つなんて思ってもいなかったので、10年後にどうなっているかわからないけど、今は一つひとつのことを慈しんで、愛して、目の前のものに一生懸命、真摯に努めていくしかないと思っています」
(ライター・吉川明子)
※週刊朝日 2023年1月6-13日合併号