「とく、とく、とーく、とーくしー丸~」
2017年4月中旬、野菜やパン、魚などのかわいらしいイラストが描かれた軽トラックの移動スーパー「とくし丸」が、陽気な音楽を流しながら、兵庫県洲本市郊外の介護事業所前に止まった。デイサービスも行う同施設の中から、数人のお年寄りが出てくる。
ドライバーも兼ねる男性スタッフが軽トラックの荷台を開けると、野菜や果物、肉、魚、調味料、菓子といった商品が出てきた。その数約1000種類、1600点。刺し身や巻きずし、総菜などもあり、さながらミニスーパーのようだ。お年寄りたちはさっそく、品物を手に取って買い物を始めた。
男性スタッフは、「お刺し身はこっち」「バナナは今緑色やから、ちょっと置いたほうがいいと思う。すぐ食べるん?」「それは冷蔵庫に入れても明日ぐらいまでしか持たんで」などと、気さくに声をかける。お年寄りたちはじっくりと品定めしながら、巻きずしや総菜、いちごなどを買う。
80代女性は「買い物は足が悪いのでタクシーばっかり。1人暮らしだから、このぐらい(の品ぞろえ)で十分間に合うのよ」と笑った。買い物をしている人たちは、なんだか楽しそうだ。事業所のスタッフの女性は「(ここに来ているのは)要介護者の人ばかりなので、買い物が一番困る。家族が買ってきてくれる人もいるが、自分の目で見て、買いたいものを買うのとでは全然違う」と話す。
移動スーパー「とくし丸」は、徳島市に本社がある同名の会社が、地域から商店がなくなったり、交通手段がなかったりして日常的な買い物が困難な「買い物弱者(買い物難民)」を支援しようと、2012年から始めた。「販売パートナー」と呼ばれる個人事業主が、専用の軽トラックに、同社と提携する地元スーパーから仕入れた商品を載せて、定期的に顧客を回って販売する。玄関先に車を停めて顧客に買い物を楽しんでもらう一方で、地域の「見守り隊」としての役割も担う仕組みだ。