日銀はコロナショック後にETFや社債の購入拡大策などを発表してきた。緩和カードを切り尽くしている日銀にとって、できることはいまや少ない。本来なら戦後最長景気のもとで経済が安定していた間に、金融政策の正常化を進めておくべきだった。私が会見で黒田総裁にその点を尋ねると、総裁は「金融政策の余地をつくるために早めに緩和をやめるとか、金利を上げるとかは適切ではない」と答えた。
その説明はまちがっている。米欧の中央銀行は景気回復期に緩和の出口を探り、実行してきた。米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は14年初めから量的緩和の縮小に着手し、15年末から利上げも開始した。市場の動揺の恐れがあっても、出口への道筋も示してきた。だからこそ、今回のショックでも金利を下げる余地がまだあった。日銀のようにずっと異次元の緩和を続けたままでは、金融政策の機動性がどんどんなくなってしまう。
黒田総裁はマイナス金利政策をさらに深掘りできる、というが、これ以上マイナス幅を広げたら、銀行のローンビジネスがもはや成り立たず、金融システムがおかしくなる。ETF爆買いによる株価下支えもいつまで続けるのか。危機時に株価が下がるのは仕方がないし、買い支え続けようというのは無謀だ。
いま日銀にできるのは企業の資金繰りを支援する金融機関を支えることだ。FRBも今回、格付けの低い社債を買い始めた。企業の資金繰りが世界で一気に厳しくなっており、日本でも大企業が金融機関に融資枠を要請する動きが相次いでいる。トヨタ自動車でさえ1兆円枠を銀行に求めた。日銀が社債やコマーシャルペーパー(CP)の購入を増やすのは本来の役割をこえているが、企業の資金繰り破綻を防ぐために一時的にはやむをえないだろう。
緊急経済対策の財源に国債の大量追加発行は避けられず、当面はそうやって借金膨張もできるだろう。世界中の経済が悪くなるなかで、経済競争力がある日本の国債は相対的には安全だとして、足もとではお金が集まってくるからだ。結果的に財政も日銀資産の健全性もますます揺らぐが、しばらくは仕方がない。
ただ、これをそのまま放置したのでは財政破綻のリスクが高まるだけだ。アベノミクスの本質は財政ファイナンスによる財政の拡大だった。そのひずみがたまっていることは藤巻さんが指摘するとおり。この財政ファイナンスにはどこかで限界が来る。なんとかなっているから大丈夫というのは危険な考え。経済専門家たちでさえこの先に何が起きるかわからないほど危うい状態になっている。
確かなのは、今のまま放ってはおけないということ。今回の経済対策にともなう歳出膨張分は、復興増税のように薄く、広く、長期にわたって国民が負担する仕組みを作る必要がある。
世界経済は米国を中心にこの10年ほど好景気を謳歌し、日本でも戦後最長の好景気が続いた。第2次安倍政権は景気が拡大し始めた時期にスタートし、それが長期化するツキがあった。今回初めて深刻な経済危機に遭遇し、政権としての経済政策の真価が問われる。これまでのアベノミクス手法では通用しない。