それでは、私たちが1日中起きてはいられないのはなぜでしょうか。それは、人類が生活にメリハリをつけるようにしたからです。太古の時代、人類が食べ物を獲得できる可能性は、夜よりも昼の方が圧倒的に高かったため、私たちは昼の活動性を極端に上げ、夜はその分休むようにしたのです。ネズミやネコとは逆ですね。

 ゆえに原理的には、昼の活動性を下げて日中も休むようにすれば、夜も寝ないでいられます。実際、魚類の多くは、日中も脳の一部を順番に休めることによって、夜も寝ないで泳ぎ続けられます。ただ、私たち人類は、夜は休むように作られていますので、夜寝ないという行為は健康を害する恐れがあり、オススメできません。

 では、私たちが「一日中起きていたい」などと思うのは、なぜでしょうか。それは、起きているときにだけ“意識がある”からです。喜びや楽しみを感じたり、宿題をやろうと意図したりするのは、意識の作用です。「意識をなるべく覚醒させておきたい」という思いが、起きている時間を長くしていると言えます。

 しかし眠りには、脳を休め、記憶を整理して定着させるなどの効果があります。たしかに眠っていると意識がなくなってしまい、時間が無駄なような気がしますが、睡眠中でも脳は重要な作業を続けています。たとえば、目覚まし時計が鳴ると眠りから覚めるのは、音を聞く部分の脳は眠らず、作動し続けているからです。

 睡眠の重要さを理解していてもなお、眠りたくないときはどうしたらいいでしょうか。たとえば、宿題が終わっていないのに眠くなってしまったら、「明日先生に怒られる」「ライバルのあの子はもう終えているな、負けられない」などと、自分を奮起させるのです。すると、一時的にせよ眠気が消えて、夜でも宿題を続けられます。

 とはいえ、昼は精一杯活動し、眠れる幸せを感じつつ夜はしっかり休むのがよいでしょう。

【今回の結論】起きて活動をしないといけなくなった人類は、起きているのがあたりまえになり、かえって眠ることを不思議にさえ感じるようになった。眠りには依然として重要な役割が残っている

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石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

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