令和の時代に昭和の香りを残す名店を紹介する連載「昭和な名店」。今回は、東京・神田神保町の「スマトラカレー共栄堂」だ。
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近年は「カレーの街」として名高い東京・神田神保町だが、
「ここはあくまで本の街です。私たちは、そのおこぼれでやってこれただけです」
謙虚に語るのは、同地最古のカレー店「スマトラカレー共栄堂」3代目店主・宮川泰久さん。
創業は1924年。
「明治の末から大正時代にかけて、東南アジアで知見を広めた伊藤友治郎さんという方がいました。うちの初代・石原眞治は伊藤さんからカレーの作り方を教わり、日本人の口に合うようにアレンジして開業したんです」
二十数種類の香辛料を1時間20分ほど炒めたうえで、形がなくなるまで野菜と肉を煮込んだブイヨンと合わせる。「口に入れると最初に野菜の甘さが、次に辛さが、その後でビターさが追ってきます」という独特のソースだ。
実は記者は、この店に30年以上も通っている。取材日にも食べて「変わらぬ味」を堪能したが、
「味は変わっているんですよ(笑)。お客さんの舌は肥えていくでしょう。共栄堂らしさを守りつつも、おいしく変えていかないと。それでようやく『ああ、この味だ』と納得していただけるんです。カレーは子どもと同じですね。どう育てるか、悩んでばかりです」
(取材・文/本誌・菊地武顕)
「スマトラカレー共栄堂」東京都千代田区神田神保町1‐6サンビルB1/営業時間:11:00~19:45L.O./定休日:日。祝に不定休あり
※週刊朝日 2020年6月26日号