「前者は美食を追求し、皿の中のおいしさに没頭する人。後者は皿の中に興味をもちつつも、常に面白いものはないかとキョロキョロとよそ見ばかりしているイメージです」

 そして、本当はこう言ってしまうと料理雑誌の編集長は失格なのですが、と苦笑しながら続ける。

「いわゆる食業界の人と食事に出かけることはほとんどありません。本当は、あそこの店がおいしいとか、こんな新店がオープンしたなど情報収集するのが仕事なのでしょうが、どうしても、食事の時に食べ物の話しかしないというのが我慢できないのです。だって、食事の時には音楽もスポーツも政治の話だってしたい。食事は楽しいのが一番じゃないですか」

 植野は3年前、編集長を引き継ぐタイミングで雑誌のコンセプトをリニューアルした。新旧や高級大衆を問わず、「いま本当に行ってほしい店」「作ってほしい料理」を紹介すること。そして完全予約制、予約が取れない店、対価として必要以上に高い店は掲載しないことを決めた。

「dancyu」歴およそ20年の副編集長・藤岡郷子(48)は、植野の、「長年培ってきた社外の食いしん坊つながりの人脈が、お金を生むビジネスとして成立し、時代もまたそれを求めている」と話す。
「外食にも精力的だし、仕事がないときは家でも欠かさずキッチンに立つなど、歴代編集長の中では誰よりも食中心の生活を実践していると思います」

(文/中原一歩)
                                                                
※記事の続きは「AERA 2020年6月29日」でご覧いただけます。