藤井聡太・新棋聖(18)が、ヒューリック杯棋聖戦で渡辺明二冠(36)を破り、史上最年少で8大タイトルの一つを戴冠した。その圧倒的な強さはどこから来るのか。AERA 2020年8月3日号では、AI超えの妙手が武器のライバルが強さの源泉について語った。
【写真】藤井聡太七段は「一人だけ小数点第2位まで見えている」と語った棋士はこの人
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AI時代の将棋にあって、AIがクエスチョンマークをつけている戦型で強豪を倒してきた上村亘五段(33)の将棋には勝負師としてのロマンがある。『天才 藤井聡太』(文藝春秋)の著書(共著)がある中村徹氏はこう言う。
「上村五段が得意にしているのは『後手番の横歩取り』。後手が横歩を取ると将棋AIの評価はガクンと下がるため、この戦法を採用するプロ棋士は現在数名しかいません。しかし上村さんはこの戦法で、それまでプロ入りしてから先手番で無敗だった藤井さんに初めて土をつけたのです」
お互い四段だった2017年9月、銀河戦のブロック戦。スピード感にあふれた88手で、藤井棋聖との初顔合わせを制した上村五段が当時を振り返る。
「振り駒で先手後手を決める対局だったので、先手番も想定し、藤井戦に向けて研究に許される時間を全て充当して臨みました。その甲斐あってか、初手から最後までミスがなく、将棋の神様にも怒られないレベルで勝つことができました」
それ以来の対局となる今年3月、王位戦の挑戦者決定リーグ戦は上村五段の先手番が決まっていた。将棋の戦型は、お互いの得意戦法でもある角換わりで進んだ。
「作戦的にはうまくいって有利に進んでいたと思うのですが、終盤に読んでいない手を指されていつの間にか逆転されてしまった。こちらが途中、踏み込みを欠いたというか、一手緩んだところで差を詰められ、局面が難しくなった。もちろん緩い手を指したつもりはないので、対局後にAIで調べてわかったことですけど」(上村五段)
お互いAIを使って研究を重ねているが、未知の局面にも対応できる地力の強化の大切さを感じた対局でもあった。