中国では新型コロナウイルスを封じ込めるゼロコロナ政策の幕引き後、感染者が爆発的に増えた。一方で徹底的な検査や隔離がなくなり、市民の日常生活の回復が進んでいる。AERA2023年2月13日号の記事を紹介する。
【写真】中国からの入国者に義務づけられた抗原検査の列に並ぶ旅客
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「何の準備もなく急にコロナ対策を緩めるから、こんなことになるんだ。なぜ徐々にやらなかったのか」。中国東北部の遼寧省で貿易業を営む50代の男性は吐き捨てた。コロナに感染した80代の父親を1月上旬に亡くした。火葬場はいっぱいで、つてをたどって火葬できたのは希望した日から5日後だった。
吉林省で会社を経営する50代の女性は1月上旬、90代の母親をコロナで失った。「母はとても元気だった。病院で医者から、100歳まで生きられると言われたばかりだったのに」と悲しみにくれる。厳しいコロナ対策を突然やめたことが、母親の死につながったと考えている。火葬場では200人近くの遺体が順番を待っていた。
遼寧省に住む自営業の男性(45)は、コロナに感染して1月上旬に息を引き取った父親の遺体を、同省に隣接する内モンゴル自治区まで運んだ。最寄りの火葬場は混雑し、荼毘(だび)に付す見通しが立たなかったからだ。
中国の習近平政権は昨年12月7日、感染拡大を厳しく封じ込めるゼロコロナ政策を唐突に転換した。大規模なPCR検査と移動制限、徹底的な隔離、地域の封鎖を柱とするコロナ対策を大幅に緩めた。
■なし崩し的に移行
12月26日には、入国者に義務づけてきた隔離措置も撤廃すると発表した。この水際対策の緩和は2023年1月8日から実施され、約3年にわたって続いたゼロコロナ政策は幕を閉じた。市民生活と経済活動に大きな犠牲を強いてきた政策がついに終わった。
2020年にコロナが流行した後、大都市を除けば脆弱な医療体制の充実に、当局が注力してきたとは言いがたい。重い財政負担にもかかわらず、巨費をつぎこんだのはPCR検査だった。高齢者らのワクチン接種も十分に進まなかった。中国製ワクチンの有効性の問題もかねて指摘されている。備えを欠いたまま、なし崩し的にウィズコロナ社会に移行した。