なぜ主催団体はリモート討論にしようとしたのか。事情通の説明では、直接の対決にするとトランプ氏は当然マスクなしで討論に臨み、「コロナに勝った」というトランプ氏の勢いがバイデン氏を圧倒すれば、米国人の多くがマスクをしなくなり、コロナ禍がやみくもに拡大するのを恐れたためだという。主催団体の判断は正しかったと思う。
だが、トランプ氏が各地の遊説で「自分はコロナに打ち勝った。米国はコロナに勝ったのだ」と自信を持って訴え、またいかにも元気いっぱいの様子を見せれば、その姿を見た少なからぬ米国人たちがトランプ氏に投票する、という可能性がある。
事情通たちは、トランプ氏が入院したときには、再選の見込みはないと言い切っていたのだが、元気いっぱいに遊説を始めると、どうなるかわからないと、トランプ氏が陽性になる以前よりも緊迫感を示すようになった。
それにしても、トランプ氏は「世界のことはどうでもよい。米国さえよければいい」と言い切って、世界中の非難を浴びているのに、バイデン氏はそれをまったく批判できないでいる。私などには、これが何とも歯がゆいのだが……。
※週刊朝日 2020年10月30日号
■田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数