MMT論者の主張を見ていると、「今はモノやサービスの需要に対して供給が過剰だからデフレなのだ。供給不足にならない限りインフレにならない」と思い込んでいるようです。しかし、財政への信頼喪失からくる通貨安インフレは、モノやサービスの需給とは別の次元の話です。

 現に、2019年と2012年を比較すると消費者物価指数は7%以上も上昇しています。これは日本国内の需要が増えたからではなく、消費税増税に円安インフレを被せたからです。

 円安インフレの原因はアベノミクス第1の矢「異次元の金融緩和」です。日銀が国債を爆買いして円を大量供給したため、為替市場の参加者達が「円の価値が落ちる」と予想して円を売り、民主党時代と比較して大幅な円安となったのです。

 民主党時代は1ドル80円ぐらいだったのが、最も安い時で1ドル120円ぐらいまで下がりました。これは、円の価値がドルに対して3分の2になったことを意味します。そうすると、外国との取引の決済に使用するドルを得るために、今までよりも多くの円を支払う必要があるため、輸入物価が上がります。それは国内物価に転嫁されるので、国内物価が上昇するのです。

 そして、消費税増税よりも、円安インフレの方が物価に与えた影響が大きいです。物価だけが上昇してしまったため、GDPの約6割を占める実質民間最終消費支出は、2014年から3年連続で下落しました。これは戦後初です。つまり、アベノミクスは戦後最悪の消費停滞を引き起こしました。

 みなさんも、お菓子が小さくなったうえに値上がりしているのに気付いたでしょう。それは円安が進行して輸入物価が上がってしまったからです。このように、需要が伸びなくても通貨安インフレによって物価が上がることはあります。MMT論者は、この「通貨安インフレ」というものを全く無視しています。

 したがって、「インフレにならない限り財政赤字は問題無い」なんて、当たり前なのです。財政赤字が増え過ぎれば、財政への信頼低下により、通貨が為替市場で売られて通貨安インフレが発生してしまうからです。

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