こうしたコロナ禍での新たな業務が、想像以上に看護師の負担を重くし、バーンアウトのリスクを高めている。
健康・医療心理学を専門とする大阪大学人間科学研究科の平井啓准教授は、「もともと看護師や介護福祉士などの職業は、バーンアウトしやすい」とした上で、コロナ禍では特に起こりやすい要素があると指摘する。
一つは、通常より業務量が増えたことだ。先にも触れたが、汚染された器具の消毒や感染者の排せつ物・吐物の処理、コロナ病床の廊下やトイレの掃除をするのは看護師だ。防護具を着た状態でしなければならず、それだけ負担が増える。
平井准教授は、さらにそこに経験不足が追い打ちをかけているという。
「ベテランの看護師さんなら技術も知識もあるので柔軟でこまやかな対応もできますが、まだ経験の浅い看護師さんだと、看護業務だけで精いっぱい。たった一人で感染患者に対応しなければならないとなると、プレッシャーも負担感も相当に大きいと考えられます」
もう一つ、金銭面の問題も挙げられる。感染のリスクを抱えながら、感染者の命を守るという過酷な仕事でありながら、支払われている対価は十分とはいえない。日本医療労働組合連合会は11月25日に記者会見し、加盟する医療機関の44.3%で、年末一時金(冬のボーナス)が昨年より引き下げられるとの調査結果を明らかにした。
「(医療者は)この9カ月間、ずっと厳しい中で働いている。夏に続いて今回も一時金が引き下げられる。このような状況が続くと、責任感や使命感で働いている医療や介護従事者はこれ以上もたない」(森田進書記長)
別の意味で「落ち込むことがある」と話すのが、先のTさんと同じ職場に勤めるKさん(30代)。
「看護師としてもっとも大事にしているのが、患者さんに共感して思いをくみ取ること。手を取って話を聞いてあげたいんですけれど、防護具を着ているので見えているのは目だけ。受診者と距離を置かなければいけないので、自分のやりたい看護ができません」