溢れんばかりの映画愛に包まれた本作「声優夫婦の甘くない生活」は、映画史に残る傑作「甘い生活」を生み、今年、生誕100周年を迎えたイタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニへオマージュを捧げている。監督自身の経験が生かされた脚本が秀逸。
1990年9月、「鉄のカーテン」が崩壊したソ連からイスラエルへ移民したヴィクトル(ウラジミール・フリードマン)とラヤ(マリア・ベルキン)。2人は、かつてソ連に届くハリウッドやヨーロッパ映画の吹き替えで活躍した声優夫婦。しかし、第二の人生の現実は厳しく、声優の需要がない新天地で生活の糧を得なければならない。ラヤは夫に内緒で就いたテレフォンセックスの仕事で意外な才能を発揮。一方、ヴィクトルは違法な海賊版レンタルビデオ店で、再び声優の職を得る。
ようやく軌道に乗り始めたかに見えた生活。しかし、妻の秘密が発覚したことがきっかけで、長年気づかないふりをしてきたお互いの“本当の声”が噴出し始める……。
本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)
■渡辺祥子(映画評論家)
評価:★★★★
イスラエルに移民したのが声の吹き替えをするロシア人俳優夫婦、という設定が映画好きには嬉しい。妻の新たな仕事が才能の生きるビジネス、なのには大笑い。夫婦の会話に出てくる映画をめぐるエピソードの数々が楽しめる。
■大場正明(映画評論家)
評価:★★★★
イスラエル史上最大の移民の波やフセインのイラクによる攻撃など、当時の状況と夫婦のユーモラスな奮闘が巧みに結びつけられ、未知の世界に飛び込んだ移民の心境を想像すると、エピソードがどれも興味深く思えてくる。
■LiLiCo(映画コメンテーター)
評価:★★★
奥さんが電話で男を満足させるくだりから会うまでとか、洋画の吹き替えもコミカル。でも国の背景がやはり暗すぎて好みが分かれそう。もちろんそう描かないと伝わらないけど。夫婦の関係性だけに注目すると面白い。
■わたなべりんたろう(映画ライター)
評価:★★★★
イスラエルのコメディー映画を観るのは「グローイング・アップ」シリーズ以来かもしれないが、こんなに面白いとは! 旧ソ連圏から移民した監督自身の体験をもとにした日常感覚が良い。生き抜くための庶民の知恵が逞しい。
(構成/長沢明[+code])
※週刊朝日 2020年12月18日号