ついでにいうと、ネットオークションに法外な安値で出品されている“作家もの”のタブロー(平面作品)はその大半が贋作であり、落札したひとが抗議しても、出品者が“わたしは真作だと思って売りました”といえば、出品者は“善意の第三者”であり、これを覆す方法はないし、出品者を罰することもできない。ことほどさように贋作を贋作であると証明するのはむずかしい(よめはんは現存作家だから自作の真贋を判定するのは簡単だが、物故作家の場合はめんどうだ。指定鑑定人や権威ある美術倶楽部に鑑定を依頼すると、相応の鑑定料をとられるし、贋作だと鑑定されれば鑑定料は丸損だ)。
もうひとついうと、現在もよめはんの贋作がネットオークションに出品されている。紫木蓮を描いた色紙大の日本画で、見るからに下手。そのタイトルには《真作 黒川雅子 日本画》とあり、『雅』らしい印章も捺されている。《落札日から90日以内に公定鑑定機関より贋作と判断された場合、作品を返品頂いた上で、鑑定料と落札金額を返金させて頂きます》とあるが、公定鑑定機関とはなにか。そんなものは存在しないし、鑑定料は落札者が立て替えることになる。この手の出品者が返金するはずもない。
つまりは、やりっ放しなのだ。騙したやつより騙されたほうがわるい。わたしが美術品をめぐるコンゲーム小説を書くのも、そこに理由のひとつがある。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2020年12月25日号