「契約や取引の書面も電子データでのやり取りが主で、通帳など紙の書類がほとんどない。家族は口座や取引の存在自体、把握していないこともあります」
冒頭のデジタルデータソリューションはパスワード解析を引き受けるが、その費用は安くはない。パソコンは10万円ほどで、スマートフォンは最低30万円、機種によっては50万円。期間は早くて3週間、長ければ1年かかるという。
高額と知ると費用を惜しみたくなるが、素人が無理をすると危険だ。
「スマホの機種や設定にもよりますが、パスワードの入力情報を11回間違えると、セキュリティーシステムが働き、中のデータは初期化されます」(前出の上谷さん)
つまり、すべて真っ白に消去されてしまう。プロに任せるのが無難だ。
こんな悲劇もある。遺品整理会社・マレリーク(大阪府)代表の近藤博之さんが明かす。
「ご遺族の依頼でパソコンを開けたところ、故人と女性の不倫写真が保存データから出てきたという例は、珍しくありません。なかには、60代男性の遺品でそうした例もありました。仕事なのでご遺族にお渡ししますが、複雑です」
こうした経験から、近藤さんは終活ノートのデジタル版ともいえるアプリ「編みノート」を開発した。生前に自分で「保存したいデータ」と「削除したいデータ」に分類する。長期の入院や不慮の死などで、設定した日数を過ぎてもパソコンが起動されないと画面にパスワードが出る。3回間違えると、「削除したいデータ」は自動消去される仕組みだ。
ただ、最も手軽なのはアナログ的な方法だろう。日本デジタル終活協会の伊勢田弁護士は、紙による保管を提案する。
「何をどこに置いてあるといった終活ノートの類をきちんと作成できる、きちょうめんな人はごく一部です。お勧めは、スマホとパソコンのパスワードをメモ用紙などに書き、財布や預金通帳に挟むなど、万が一の場合に必ず遺族が確認する場所に保管することです。冷蔵庫に貼っておくのもいい。これならば10秒あればできます」
(本誌・永井貴子)
※週刊朝日 2021年1月15日号