延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
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京都で生放送した「村上RADIO」
京都で生放送した「村上RADIO」

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、村上春樹さん、山中伸弥さん、山極壽一さんと京都で一緒にした年越しについて。

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 年末年始「ゆく年くる年」の特別枠はどの局も一番の出演者を立て企画を練る。

 2020年は「これまでに経験したことのない厳しい年」だった。それに相応(ふさわ)しい方にマイクに向かって欲しい。ならばこの人しかいない──。思い切って、村上春樹さんにパーソナリティをお願いした。「『村上RADIO』を特別な時間に、初めての《生放送》でやりませんか?」と。こうして『年越しスペシャル~牛坂21~』が立ち上がった(このタイトルは丑年生まれの春樹さん自身の命名)。

 サウンドハンティングに番組送出場所となった京都に向かった。下鴨神社で僕らを迎えてくれたのは「風」だった。イヤフォンで風の音を聴くと体が耳ごと京都の空に舞い上がっていく気持ちになった。「そうだ、番組冒頭にこの風の音を流し、春樹さんのデビュー小説『風の歌を聴け』の一節を朗読しよう」

 翌朝は東山の青蓮院門跡に。年またぎ部分で流す除夜の鐘の収録である。美しい庭に雪が舞い、許可を得て寺の鐘の前でマイクを構えた。強く弱く、ご~んと鐘を撞(つ)く。そのたびにカラスが啼くのには参った。オンエアの時間にカラスはいない。同行していた編集者のTさんが「延江さんが鐘を撞くと、空気の振動で雪が揺れながら降っていきますね」と呟いた。それは鐘の音が「見えた」瞬間だった。そのTさんが最後に鐘を撞いたのだが、不思議なことにカラスが黙り、その音を放送に使うことにした。

 いよいよ大晦日になり、春樹さんが生のマイクに向かった。京都と東京をデジタル回線で結び、そこから北海道から沖縄まで全国に繋ぐ。前半は春樹さんのマラソン仲間でもある京大iPS細胞研究所所長の山中伸弥さん(ラジオネーム「AB型の伊勢海老」)とコロナの話題を中心に、年明けは世界的ゴリラ研究者、京大前総長にして日本学術会議前会長の山極壽一さん(ラジオネームは「ゴリラの背後霊」!)が昨年問答無用で(学術会議会員の)任命拒否をした現政権に対し「ゴリラを見習ったほうがいい!」と一喝した(詳しくは『村上RADIO』番組HPに抄録を掲載予定)。

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