大企業による本社ビル売却が相次ぐ。背景にはコロナ禍による経営不振がある。疲弊する日本企業を横目に、都心の一等地に触手を伸ばすのは海外勢だ。電通本社ビルは日本の不動産会社が優先交渉権を得たとみられるが、海外勢の動きが価格をつり上げた。AERA 2021年2月15日号から。
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電通やエイベックスといった大企業の本社ビル売却報道が相次ぐ。新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが普及したことも一因だが、最大の原因とみられるのはコロナ禍による収益の落ち込みだ。
かつて旧本社ビル売却で経営不振を乗り越え、今期の純利益予想が1兆円超と華麗に復活したソニーのように、本社売却で窮地をしのぐのは経営の常套手段でもある。ただ、緊急事態延長で経済活動の本格化がさらに遅れる中、「日本の不動産がどんどん外国の手に渡ってしまう」という声さえ聞かれる。
■売却額は過去最高規模
地上48階建ての電通本社がある汐留エリア(東京都港区)は、日本テレビ、富士通、ANAホールディングス、資生堂などの本社が並ぶオフィス街。国鉄の貨物駅だった広大な土地の再開発は、電通が中心企業の一つとして進めてきた。
電通は2020年12月期決算で2年連続の最終赤字を見込んでおり、本社ビルを売却し、テナントとして入居することで経営資源の効率化を図る考え。交渉先として国内の大手不動産会社の名前が挙がっており、売却額は3千億円程度と国内の不動産としては過去最高規模の売買となる見通しだ。
オフィス仲介の三鬼商事によると、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス空室率は昨年12月時点で4.49%。10カ月連続で上昇し、5年3カ月ぶりの高さだ。テレワーク普及によるオフィス解約の影響とみられる。
足もとのオフィス市場が冷え込みつつある中、電通本社ビルが過去最高額で売却される見通しなのはなぜか。最大の理由は、海外投資家や外資系不動産ファンドが食指を動かしていることだという。
不動産業関係者は「比較論だが、都市封鎖で経済活動が沈滞している欧米よりも、日本市場の方が海外投資資金が向きやすい土壌にある」と指摘する。