「鴻上にしては笑いが少ないっていう感想もあってね。理由はわかっているんですが、ちょっと言語化はしにくいな。だから、もっと頑張ります。長期戦で闘っていくしかない」
この舞台に鴻上が込めた「自分自身の思い」を確認しておきたい。コロナ禍で政府が最初に文化・スポーツイベントの主催者に自粛要請をしてきた際、彼はツイッターなどで「休業補償とのセットを」と発信し、集中砲火を浴びた。「お前ら特権階級か」「好きなことをやってるくせに」等々。
「心が100回は折れました。かなり疲れてもきています。特権だなんてとんでもない。冠婚葬祭とか飲食業界とか、いろんな分野で同時に声を上げることが大切だと言っているのに」
演劇と言えば、テレビで活躍するスターたちがまず連想される。派手なイメージが仇になった。
「でも、芝居だけで生活できる人なんて一握り。苦しい時に人々の心を癒やせるのが演劇です。その演劇が、こんなにも人々の生活から遠かったとは」
鴻上が改めて思い知ったのは、この国の同調圧力の凄まじさだ。みんな同じでいろと命じる、世の中全体の「空気」のことである。
このテーマで彼は、コロナ以前から多くの論考を書いてきた。だが努力の甲斐もないまま、同調圧力はコロナ禍でピークに達した。お上の意向に従順でない者を、物理的・精神的に叩き、傷つけまくる「自粛警察」が猖獗(しょうけつ)を極めている。
「演劇が人々から遠い」ことへの反省は、入門書を書いて形にした。演劇の楽しさや本質を縦横に論じて、6月ごろ出版される予定だ。
とはいえ鴻上の本懐は、やはり舞台だ。コロナの年の最後に「ハルシオン・デイズ2020」を上演できたことの意義は、まことに……と、ここまで書いて、ふと思った。なまじ取材で何度も人柄に触れていると、つい忘れさせられてしまうのだが、彼は演劇界における大成功者の一人である。いくつもの演劇賞を総なめにし、テレビや映画、文筆の世界でも、絶えず第一線で活躍している。