相続がきっかけで、家族に確執が生じることは少なくない。その解決は時に、司法の手に委ねられる。埋めがたいほどの深い溝はなぜできるのか。
家族の一人(被相続人)が亡くなった場合、遺言があればそれに従って相続するのが原則だ。しかし、遺言がない場合は相続人全員で遺産を分割するための協議をしなければならない。
協議がまとまったことを示す「遺産分割協議書」には、相続人全員の署名と押印が必要なのだが、このハードルが高い。例えば相続人となるきょうだいが4人いたとして、1人でも「NO」と言えば、遺産分割は前に進まないのだ。
行き詰まった時の最後の手段が、裁判所の「調停」や「審判」だ。どちらも相続人が家庭裁判所に申し立てをする必要がある。
調停になると、民間から選ばれた第三者の調停委員や裁判官が相続人の間に入り、合意に向けて話し合いを進めていく。
『わが家の相続を円滑にまとめる本』(実務教育出版)の著者で、相続問題を専門に手がける小堀球美子(くみこ)弁護士は、こう話す。
「この段階で、相続人同士の関係は悪くなっていることが多いので、まず相続人同士が顔を合わせないよう、調停委員や裁判官が別々に話を聞きます。実際には、2人の調停委員が各相続人と交互に話し合い、時間的にはおおむね全体で2時間くらいかかるイメージですね」
この調停で合意に至らない場合は、裁判官が強制力のある審判を下すことになる。あるいは調停を経ずに、初めから審判を申し立てることも可能だ。仮に審判の内容が不服な場合は、審判が下りた日から2週間以内に高等裁判所に抗告を申し立てる。それを過ぎると審判が確定する。
ここまで事が進むと修羅場、まさに「争族」だ。小堀弁護士は語る。「調停を申し立てた時点で、ほとんどの家族は険悪になっています。そこでまとまらずに審判となるようなら、人間関係の修復はもはや不可能でしょう。残念ですが、骨肉の争いになることが多いですね」。
※週刊朝日 2013年5月3・10日号