低倍率の傾向が続く教員の採用試験。倍率だけで「質」を議論するのは危険な上、本質的な問題は別のところにあると専門家は指摘している(写真:東京アカデミー)
低倍率の傾向が続く教員の採用試験。倍率だけで「質」を議論するのは危険な上、本質的な問題は別のところにあると専門家は指摘している(写真:東京アカデミー)
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AERA 2021年3月15日号より
AERA 2021年3月15日号より
AERA 2021年3月15日号より
AERA 2021年3月15日号より

 教師になるための大きな一歩である教員採用試験の倍率が、近年低下している。試験に挑む学生たちやその周囲は、この影響をどう感じているのか。AERA 2021年3月15日号で取材した。

【グラフ】下がり続ける 公立校教員試験の採用倍率はこちら

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 現役合格は過去最高の22人。昨年の教員採用試験で、沖縄大学(那覇市)のこども文化学科が残した実績だ。学生を指導する池間生子教授はこう話す。

「どれくらい努力すれば採用試験に合格するかという認識が学内で確立しつつあります。目指す学生は全員が本気で取り組んでおり、その結果です」

 学科では八つのゼミで約60人が学んでいる。多くが教員を将来の職業の選択肢の一つとして考えて入学するという。現場に出た卒業生が頻繁に大学を訪れ、採用後、即戦力とはならないまでも、学生時代から仕事のイメージをつかみやすい環境にあるのだという。

 学生は主に沖縄県で働く教員を目指し、その沖縄県では2020年度採用の小学校の倍率は全国平均より高い4.3倍。詳細は後述するが、全国平均より高いものの、「倍率が下がる傾向にあるのは全国と同じ」(県教育委員会)だという。

■「2倍」を下回る倍率も

 倍率はどう影響するのか。池間教授はこう話す。

「沖縄の若者は外に出ても戻ってくる子も多い。試験も以前より難しくなっているし、低下傾向にある倍率のおかげで合格しやすくなっているのかどうかはよく分かりません」

 文部科学省は2月、20年度採用のため19年に全国で行われた公立学校の試験結果の概要を公表した。

 調査対象は教員の採用を行っている47都道府県と政令指定都市など。小学校教員の採用倍率は全国平均で2.7倍と、調査を始めた1979年度以降過去最低となった。山形、福島、富山、山梨、山口、福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎の各県と北九州市、合同で採用している広島県と広島市の13自治体では、倍率が2倍を下回った。

 一方で、中学校と高校の採用倍率の全国平均も前年度を下回り、それぞれ5.0倍と6.1倍だった。小中高のほか、特別支援学校、養護教諭、栄養教諭のすべてを合算した倍率は3.9倍と、これも過去2番目の低さだ。00年度の13.3倍をピークに、どんどん下がる傾向だ。

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