■海外から流入の恐れ

 南ア株とブラジル株にある変異「E484K」はグルタミン酸(E)がリシン(K)に変わっている。この変異があると、ワクチンや感染によりできた従来型のSたんぱく質に対する「中和抗体」の一部が結合できなくなり、ウイルスが中和抗体の攻撃をかわして生き延びるため、「免疫回避の変異」と呼ばれる。

 3種類の変異株は変異が何種類も蓄積しており、複数の変異の複合的な作用でウイルスの性質が変化すると考えられる。

 政府は3月25日現在、日本人や永住者と配偶者や子どもらを除き、実質的に国外からの入国をすべて拒否しており、入国者数は1日3千人弱だ。

 しかし、もしオリンピックが開催されれば、海外からの観客は受け入れなくても、今の何倍も渡航者が訪れるのは間違いない。そうすれば、海外から変異株が入ってくる可能性が高まる。

 現状では、国内における変異株の動向すらうまく追えていない。国内のPCR検査件数は多くても1日10万件程度で、遺伝子の配列の解析は原則として陽性患者の5~10%だ。

「変異株対策には、国外からの流入と、国内での新たな変異株の出現の両方を追跡調査し、疫学的な流行状況の分析とあわせて総合的に判断する体制を強化する必要がある」

 英インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授(免疫学)はこう指摘する。人口が日本の約半分の英国では、1日約70万件のPCR検査をし、その1割を目標に遺伝子配列を解析しているという。しかも、特定の地域で急激に感染者が増加するなど疫学的に気になる傾向と、遺伝子の解析結果を統合的に分析する体制ができているため、早い段階で、英国株の登場を検知することができた。

 国内での新たな変異株が登場するのをなるべく防ぐには、

「一定の頻度で変異が生じることを考えれば、ウイルスの複製回数を抑える、つまり流行を抑えるしかない」(小野准教授)

 つまりは3密の回避、マスクの着用といった従来の感染対策の継続が重要になる。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2021年4月5日号