“絶望系アニソンシンガー”ReoNaの初となるホールツアー【ReoNa ONE-MAN Concert Tour “unknown”】が4月29日、パシフィコ横浜 国立大ホールにてファイナルを迎えた。
いまだにコロナ禍における集客規制が厳しく定められる中、音楽ライブ(特に有観客形式)も本当に少しずつではあるが、回復の兆しを見せ始めており、この日の公演もキャパシティや観覧マナーを制限した状況下ではあったものの、実際にオーディエンスを会場に招き入れた形で実施された。アーティストのパフォーマンスから発せられる生のヴァイブやグルーヴを浴び、改めて人間が人間らしくあるために必要な活力として、音楽は決して“不要不急”なものではないのだと再確認した人も多かったのではないかと思う。
ダニエル・パウターの曲がかかっていた開演前BGMは、そんな彼女の最新パフォーマンスの露払いとしてはピッタリだったのではないか。ReoNaが掲げる「名前のないお歌で名前のない絶望に寄り添う」というポリシーは、まさしくダニエルが名曲「Bad Day」で「今日はついていなかっただけ」「そんなに頑張らなくていいよ」と歌ったように、背中を押すのではなく肩にそっと手を置き、前に進ませるのではなくただ一緒にいることでの救いを意味するものであるし、その在り方こそ先行きの見えない真っ暗闇の中で人間に必要な温もり、癒しなのだから。
静謐なピアノの導入から一気に重厚なバンド・アンサンブルが解放される「Untitled world」で始まった本公演は、昨年リリースされた1stアルバム『unknown』のタイトルを冠している通り、アルバムの収録曲を主軸としつつ、“神崎エルザ starring ReoNa”名義の作品からシングルのカップリングや新曲まで、現時点でのレパートリーを総動員したセットで臨んだショーだった。
とりわけ「Untitled world」以降の序盤は、力強く疾走感のあるストレートなロック・サウンドを鳴らすセクションで、『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』2ndクールのオープニングテーマ「ANIMA」、『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のエンディングテーマ「foreget-me-not」、そして『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』のオープニングテーマ「Scar/let」と、いきなりタイアップ・ソングを立て続けに披露。普段は霞のように儚いReoNaの声と佇まいも、ひとたびメロディを奏で始めれば、たしかな芯と輪郭を得て、アニメやゲームの世界観にも劣らない存在感を煌々と放っていくのだ。
「今日ここにいるみんなと作る、1秒1秒、特別な時間、最後の最後までめいっぱい受け取ってもらえますように」と挨拶したのち、「ReoNaの始まりの歌」と紹介されて始まったのは、ReoNaがシンガーとして“ステージに立つ道を選んだ原点”だという楽曲「怪物の詩」。前述の『SAO』楽曲を含めて、冒頭は彼女の“出会い”の音楽を振り返るような感慨を覚えるセクションでもあった。
不穏なギターのフィードバック、地の底からポコポコと沸いてくるようなベース、音階を忙しなく行き来するピアノが空気をガラッと変え、そのままReoNaのさらなるディープな表現世界に沈み込んでいった「Let it Die」は、この日のハイライトの一つだっただろう。8分の6拍子で突き進む壮大なピアノ・ロックに乗せ、“葬列”や“柩”や“屍”など、明確な“死”のモチーフを歌うこの曲は、彼女のレパートリーの中でもひと際ダークな世界観を描き出している。右に左にとワイパーのように往来する照明もヒプノティックで、ドラマティックな展開で圧倒した冒頭セクションとはまた違う、反復と反響を繰り返すうちに陶酔へ導くようなパフォーマンスも印象的だった。
そこから一転、カフカの『変身』を題材にしたバラード「ミミック」からは圧を抜き、ReoNaの歌声が紡ぐメロディをピュアに際立たせる展開へ。Aqua Timez「決意の朝に」のカバーを経ての「雨に唄えば」に関しては、まさに朝から雨模様だったこの日がピッタリのシチュエーションだったし、こちらもデビュー前の作品「トウシンダイ -Acoustic ver.-」では、ウッド・ベースの優しくふくよかな低音が心地よかった。
シングルのカップリング曲が続いたあとは、再び『unknown』の世界へ。「BIRTHDAY」「いかり」「心音」「絶望年表」は、アルバムの収録曲順の通りにパフォーマンスされた4曲。ほっと一息つくような温かみのあるサウンドの中にも、たしかに孤独や挫折に寄り添う言葉の数々が刻まれており、むしろ表現の許容域に関してはこのアルバムで大きな広がりを見せていることに改めて気づく。また、そんな流れの延長線上にあったからこそ、ReoNaが自分自身の絶望と向き合い、音楽的なルーツにも自己言及的に迫ったカントリー調のナンバー「絶望年表」は、バンド・メンバーが横一列になったパフォーマンスも含めて、演者とオーディエンスが完全に繋がり、会場全体が一体となった瞬間だったようにも思える。
ライブは終盤戦、披露されたのはTVアニメ『シャドーハウス』エンディングテーマに起用されている新曲「ないない」だ。アニメとリンクするゴシックな世界観を描くこの曲は、サウンド的にはアニソンらしい華やかさとトレンディなダーク・ポップとを掛け合わせたデザインになっていて、間違いなく新機軸と断言できる仕上がりになっている。何と言ってもこの日は、ストリングスとクワイヤーのセクションも加わり、豪華フルセットの生音でパフォーマンスが構築されたのも贅沢だった。
アルバムのオープナーであり表題曲「unknown」、そしてアルバムのエンディングを締めくくる「SWEET HURT」を歌い終えて暗転、この日の演目は終了した……かと思いきや、再び照明がステージを照らすと、最後はソロデビュー前、神崎エルザとして世に送り出し、そしてデビュー後にReoNaとして再構築した「ピルグリム -ReoNa ver.-」を披露。3つのミラーボールが満天の星空を作り出し、圧巻のスペクタクルに囲まれて迎えたラストは、かつて別の世界のポップスターを演じ、今ではReoNa自身として“あなた一人ひとり”に寄り添う音楽を紡ごうとしている、そんな彼女のシンガーとしての歩みを祝福するような、とても感動的なフィナーレだった。
Text by Takuto Ueda
Photo by 平野タカシ
◎公演情報
【ReoNa ONE-MAN Concert Tour “unknown”】
2021年4月29日(木・祝)
パシフィコ横浜 国立大ホール
<セットリスト>
01. Untitled world
02. ANIMA
03. foreget-me-not
04. Scar/let
05. 怪物の詩
06. Let it Die
07. ミミック
08. 決意の朝に
09. 雨に唄えば
10. トウシンダイ -Acoustic ver.-
11. BIRTHDAY
12. いかり
13. 心音
14. 絶望年表
15. ないない
16. unknown
17. SWEET HURT
18. ピルグリム-ReoNa ver.-