「黒人への差別は(歴史的、社会的な)体系的な問題。理解するためには正確な知識が必要だと思います」というクリスさん。10年以上日本で暮らしてきた彼が感じているのは、肌の色や性別、年齢などで人を判断するステレオタイプな視線だという。
「デビュー当初は『アメリカに帰れ』みたいなメッセージが送られてくることも何度かありましたし、『黒人だからR&Bやラップをやるんでしょ』といった偏見を持たれることが多かったですね。アメリカでも同じで、『黒人のアーティストはR&B』というイメージが根強くあるし、実際、ロックやポップスを歌う黒人シンガーはほとんどいない。僕の場合は日本でJ-POPシンガーとして認めてもらえたので良かったですが、見た目で判断されることは今もありますね。『体が大きくて怖そう』『ドレッドヘアーの黒人は悪いことをしてそう』とか。外見でイメージを持ってしまうのは仕方がないけど、もしその人に会う機会があれば、『本当はこういう人なんだな』とわかるはずなんですけどね」
またクリスさんは昨年、Instagramを通して「差別されたことはありますか?」とファンに問いかけた。シングルマザーや外国籍の人、障害を持った人、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の子どもを持った親などから多くのエピソードが寄せられ、「日本も様々な差別やいじめがある」と気づくきっかけになったと語る。
「シングルマザーというだけで、『業務をこなせないのでは』と決めつけられて仕事に就けないこともあるし、外国人というだけで賃貸契約ができないこともある。そういう一方的な思い込みのなかには、差別意識も含まれていると思います。まず必要なのは、一人一人が自分の経験を話すこと。それを共有することで『自分だけの問題ではないんだ』と認識することも大事ですよね」
クリスさんの5年ぶりのニューアルバム「COMPLEX」(7月14日発売)にも、この1年における自身の経験や気づきが反映されている。本作のテーマについて「Instagramなどを通して、どんなところにも差別があるとわかったし、コンプレックスを抱えている人もとても多い。そんな悩みや苦しみを共有できるようなアルバムにしたかった」と説明。根底にあるのは、自分らしく生きることの大切さだ。