それでも、こうして観ているだけの世間は楽なものです。私も先ほど、待ちに待った光景をようやく見届けることができました。古くはロンドン大会の代表選考の頃から、私の脳内で「黄金カップル」として壮大な妄想を掻き立ててくれている萩野公介・瀬戸大也の両名。思えば5年前のリオ大会の際にも、この連載でふたりの関係性(というか私のファンタジー)を取り上げさせてもらいましたが、この5年間のふたりに巻き起こった悲喜交々は、まさに「事実は小説より奇なり」でした。そして彼らもまた、実際の出来事とともに付随し続けた「声」によって、最後の最後まで振り回されてきた人たちだと言えるでしょう。しかし、彼らの「結果」というのは、当然彼らひとりひとりによってたどり着いたものであり、そこに何の関係もない外野があれこれ知ったような口を叩くのは野暮の極みでしかありません。萩野さんも瀬戸さんも、実に若者ならではの「臭み」を見せてくれました。強く望み、思い描くものとは違うからこそ、人生は面白いのです。

 早速「瀬戸選手は人間的に少し成長できてよかった」とか「萩野が瀬戸を救い出した。瀬戸は萩野に感謝すべき」などと宣(のたま)っている連中がいるようですが、頼むから黙っていて頂戴。飛沫よりタチが悪い。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2021年8月13日号

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